就労移行支援事業所とは何? ハローワークとの違いや対象者、利用するメリットを解説

2025/8/29 最終更新

就労移行支援事業所って、何をしているところなのか、どんな人に向けてどんなサービスをおこなっているのか、いまいちピンとこないかもしれません。

しかし、実は就労移行支援事業所は全国に3300ヵ所以上あり(厚生労働省 令和5年社会福祉施設等調査の概況より)、利用者数は全国で3万人を超えています。このように障害のある方々が就労移行支援事業所を利用して一般企業へ就職する人は年々増えています。

就労移行支援事業所とはどのような場所なのか、概要を紹介します。

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  • 就労移行支援事業所とはどんなところ?

    就労移行支援事業所とはどんなところ

    就労移行支援は障害福祉サービスに位置づけられており、その利用料金は国が定める基準にもとづいています。

    前年の世帯所得に応じてひと月あたりの自己負担上限額が設定され、利用者の多くは0円で利用しています。費用負担が必要な場合でも、上限額は最大で37,200円です。

    利用できる期間は、原則として2年間です。

    2年間の利用で就職に至らなかった場合でも、市町村への申請により、必要性が認められれば最大1年間の延長が可能な場合があります。

  • 就労移行支援と就労継続支援の違い

    就労移行支援と就労継続支援は、ともに障害のある方の「働きたい」という気持ちを支える障害福祉サービスですが、その目的と内容は異なります。

    就労移行支援は、一般企業への就職をめざす方が、就職に必要な知識やスキルを身につけるための「訓練の場」です。ここでは職業訓練や就職活動のサポート、職場定着支援などがおこなわれます。原則として賃金は発生しません。

    一方の就労継続支援は、一般企業で働くことが難しい方が支援を受けながら働くことができる「就労の場」であり、そこから一般企業への就職をめざす方もおられます。利用者と雇用契約を結び給与が支払われる「A型」と、雇用契約は結ばず作業に応じた工賃が支払われる「B型」の2種類があります。

     

    項目

    就労移行支援

    就労継続支援A型

    就労継続支援B型

    目的

    一般企業への就職に向けた訓練・準備

    支援がある環境での就労

     

    比較的簡単な作業を通じた就労訓練

    対象者

    一般企業への就職を希望する方

    雇用契約にもとづく就労が可能な方

    A型の利用が困難な方など

    契約の有無

    なし

    あり

    なし

    賃金・工賃

    基本なし

    最低賃金以上の給与が発生

    工賃が発生

    利用期間

    原則最大2年間

    制限なし

    制限なし

     

  • 就労移行支援とハローワークの違い

    就労移行支援とハローワークの違い

    ハローワークも就労移行支援と同じく、障害のある方の就職を支える重要な機関ですが、その役割は大きく異なります。

    ハローワークは国が運営する公共の職業紹介機関で、求職者と企業をつなぐ「仕事探しの場」です。
    障害の有無を問わず誰でも利用でき、障害者専門の窓口で求人紹介や職業相談が受けられます。

    一方の就労移行支援は障害者総合支援法にもとづく障害福祉サービスで、就職に向けた準備を整える「職業訓練の場」といえます。
    個別の支援計画のもと、パソコンスキルやコミュニケーション、体調管理の方法などを学び、職場実習を通して実践力を養います。就職後の職場定着支援まで、長期的なサポートがあるのが特長です。

    このようにまず就労移行支援で働くための準備をおこない、そこで得た力をもとにハローワークで仕事を探す、というように連携して活用するのが一般的です。

  • 就労移行支援事業所を利用できる対象者は?

    就労移行支援事業所を利用するには、下記3つの条件を満たす必要があります。

     

    原則18歳以上、65歳未満の方

    障害(身体障害・知的障害・精神障害・発達障害・特定難病)のある方

    一般企業での就労を希望する方

     

    障害者手帳をお持ちの方だけでなく、お持ちでない方も自立支援医療受給者証や医師の診断書(意見書)、があれば申請手続きが可能です。

    サービスを利用する際には受給者証の発行が必要になりますが、自治体によっては申請から発行まで1~2ヵ月かかることもあるので注意が必要です。

  • 就労移行支援事業所を利用するメリット

    就労移行支援事業所を利用することには、障害への理解がある専門スタッフのサポートなど、一人で就職活動をおこなう場合とは異なる多くの強みが存在します。

    ここでは、具体的なメリットを紹介します。

     

    自分に合った仕事探し

    就労移行支援を利用する一番のメリットといえるのは、自分に合った仕事を見つけられることです。専門スタッフとの面談を通して自身の障害特性や得意・不得意なことを客観的に整理することにより、安定して長く働くためにどのような仕事や配慮が必要かを深く理解できます。

    またさまざまな職業訓練や企業実習を経験するなかで、これまで気づかなかった興味や適性が見つかり、仕事の選択肢が広がることもあります。

    このように自己理解を深め、専門家の視点も取り入れることで、入社後のミスマッチを防ぎ自分らしく働ける職場を見つけやすくなります。

     

    スキルの習得

    多くの事業所では、個々の目標やスキルレベルに合わせたカリキュラムが用意されています。たとえばパソコンスキル、ビジネスマナー、電話応対といった基本的なビジネススキルの習得が可能です。

    さらに職場での円滑な人間関係に不可欠なコミュニケーションスキルとして、報告・連絡・相談の練習や、相手に分かりやすく自分の意見を伝えるトレーニングもおこないます。

    加えて自分の障害特性を理解しストレスにうまく対処するための練習や、安定した勤怠につながる体調管理の方法など、長く働き続けるために必要な知識も身につけることができます。

     

    一貫したサポート

    就労移行支援のサポートは、事業所での訓練期間中だけではありません。就職活動の段階から実際に就職した後の職場定着まで、一貫したサポートを受けられるのが大きな特長です。

    就職活動中は、履歴書の添削、模擬面接といった具体的な対策を、スタッフがマンツーマンで支援します。企業面接にスタッフが同行してくれる場合もあります。

    そして重要なのが、就職後の「定着支援」です。新しい環境での悩みや課題について、利用者と企業の間に立って調整をおこない、解決策を一緒に考えてくれます。この定着支援があることで、長期的な活躍につながります。

  • 就労移行支援事業所の利用がおすすめな人の特長

    就労移行支援は、障害のある方で一般企業への就職を希望しているすべての方が利用対象となります。

    そのなかでも下記のような点に心当たりがあれば、就労移行支援事業所への相談を検討してみるのがよいでしょう。

     

    一人での就職活動が不安

    「何から手をつけていいか分からない」「自分の障害について、どう説明すればいいか悩む」「応募書類の書き方や面接に自信がない」など、一人で就職活動を進めることに不安を感じている方は就労移行支援の利用がおすすめです。

    就労移行支援事業所には、障害者雇用に関する専門知識と豊富な経験を持つスタッフがいます。一人ひとりの不安に寄り添い、具体的な解決策を一緒に考えてくれるため、安心して就職活動に臨むことができます。

    また、同じように就職をめざす仲間がいることも心強いでしょう。仲間と悩みを共有したり、励まし合ったりするなかで、孤独を感じずに前向きな気持ちで就職活動を続けることができます。一人で抱え込まずに専門家や仲間と協力しながら進められる環境は、就職という目標を達成するための大きな力となります。

     

    働くことにブランクがある

    病気や障害の影響で長期間仕事から離れていた方や、就労経験がない方にとっては、働くための体力をつけたり、毎日決まった時間に活動する生活リズムを取り戻したりすることが就職活動の重要な第一歩です。

    就労移行支援事業所では、まず「事業所に通う」ことから始められます。決まった日時に通所を続けること自体が、生活リズムを整える訓練になります。多くの事業所では、週1日や半日からの利用など、その人の体調や体力に合わせて通所日数を調整できます。はじめは無理のないペースで少しずつ心身を慣らしながら、働くために必要な体力や集中力を高めていくことができます。

    安定した勤怠は、企業が採用選考で重視するポイントのひとつです。まずは日常生活の土台を固めたいと考えている方に、就労移行支援は最適な場所といえるでしょう。

  • 就労移行支援事業所を利用すべき? チェックすべきポイントとは?

    就労移行支援を利用すべきか迷っている方のために、目安となるチェックリストを用意しました。

    以下の項目で当てはまるものがいくつかある場合、一度就労移行支援事業所に相談してみることをおすすめします。

     

    就労移行支援の利用検討チェックリスト

    一般企業で働くことを希望している

    仕事から長期間離れており、働くことにブランクがある

    自分の障害特性や、得意・不得意なことをうまく整理できない

    生活リズムが不規則で、安定して働くための体調管理に不安がある

    就職活動の始め方や、具体的な進め方が分からない

    履歴書の作成や面接に自信がない

    自分の障害について、企業にどう説明すればよいか悩んでいる

    職場の人間関係をうまく築けるか、コミュニケーションに不安がある

    一人で就職活動をしていると、モチベーションが続かない

    過去に就職したが、長く続かなかった経験がある

    就職したあとも、悩みや問題を相談できるサポートが欲しい

     

    このチェックリストは、あくまで目安です。大切なのは自分の「働きたい」という気持ちと、そのためにサポートを得たいと感じているかどうかです。少しでも当てはまることがあれば、支援を受けることで解決できるかもしれません。

  • 就労移行支援事業サービスを利用する方法

    就労移行支援を利用したいと思ったら、どのような手順ですすめればよいのでしょうか。ここでは、サービス利用開始までの一般的な流れを3つのステップに分けて解説します。

     

    1. 事業所を探して相談・見学する

    まずは地域にある就労移行支援事業所を探すことから始めます。インターネットで検索したり、市区町村の障害福祉担当窓口で情報をもらったりすることができます。

    気になる事業所が見つかったら問い合わせて、相談や見学の予約をしましょう。実際に事業所を訪れ、雰囲気やプログラムの内容、スタッフの対応などを自分の目で確かめることが非常に重要です。多くの事業所では、実際のプログラムを体験できますので積極的に活用しましょう。

     

     

    2. 障害福祉サービス受給者証を申請・取得する

    就労移行支援は障害福祉サービスの一環ですから、利用するには在住の市区町村が発行する「障害福祉サービス受給者証」が必要です。

    利用したい事業所がおおよそ決まったら、市区町村の障害福祉担当窓口で利用申請をおこないます。申請の際にはサービス等利用計画案の提出や、職員による聞き取り調査によって本人の状況やサービスの利用意向などが確認されます。

    支給が決定されると受給者証が発行・交付されますが、交付までには1ヵ月程度かかる場合があるため、事業所見学と並行して早めに手続きを進めるとよいでしょう。

     

    3. 事業所と契約し、利用を開始する

    受給者証が手元に届いたら、利用を決めた事業所と正式に利用契約を結びます。契約時には利用に関する重要事項の説明を受け、疑問点などをよく確認しましょう。

    契約後は事業所のスタッフと面談をおこない、本人の希望や目標を共有しながら、具体的な支援内容や訓練の進め方を定めた個別支援計画を作成します。この計画にもとづいて、一人ひとりに最適なサポートが提供されます。個別支援計画に同意したら、いよいよ利用開始です。

  • 就職に向けてアピールポイントをつくれる!

    就職に向けたサポートを受けられることだけが就労移行支援事業所のメリットではありません。企業へアピールする際の実績を作ることにもつながります。

    たとえば、通所率。毎日事業所に通うことは、通勤のようなものと、とらえると想像しやすいかもしれません。就労移行支援事業所へ安定的に通所できるようになれば、企業側も「本採用後の勤怠は安定しそうだ」と、具体的な就労イメージを持つことができます。

    企業の人事・採用担当者からすると、勤怠が安定しているかは採用を見極める大事なポイントとなります。

    企業にしてみれば、障害の有無に関わらず、欠勤が多くなりがちな従業員のサポートは難しいものです。突発的な欠勤が続くと、企業側もどのように仕事を割り振ればいいかわかりません。その仕事に納期があるものなら、どこまで業務を依頼していいのかも判断がつきにくくもなります。
    このように企業視点から考えると、安定した通所ができている実績がアピールポイントにつながることを理解できるのではないでしょうか。

     

    就労移行支援事業所で最初は体調が安定せず、思うように通えなかったとしても心配いりません。

    徐々に生活リズムを整え、毎日通うことができるようになれば、調子が悪い時期を乗り越えた成功経験とともに、週5日フルタイムで働ける状態であるアピールポイントをつくれます。

    また、自分の「障害を理解し、どのような配慮が必要なのか伝えることができる能力」を身につけることもできます。

    就労移行支援事業所では、「障害について理解するプログラム」や「それを他者に伝えるプログラム」をおこなうことがあります。合理的配慮がある企業でも、配慮を難しく感じる場面はどうしてもあります。どんな場面で、どの程度の配慮が必要なのか、一人ひとりに異なるのでなおさらです。
    そのため、自分の障害に関する説明や必要な配慮を説明できるようにしておくことで、会社側のサポートを得やすくなることや、無理のない働き方、安定した就労継続につなげることができます。

  • まとめ

    就労移行支援事業所とはどんなところか、少しイメージできたでしょうか。

    一言で表現すると「就職をしたい」と意欲のある方へのサポートをおこなう障害福祉サービスです。スキル習得から職場定着までを一貫して支えるという特長があります。一人での就職活動が不安な方や、仕事にブランクがある方にはとくにおすすめです。

    利用する方の立場からみれば「安定して長く仕事をするうえで、自分はどんなスキルを身に着けたらいいのか、どんなサポートが必要なのかを知ることができる場所」ともいえます。
    自分の障害についてアドバイスを得ながら理解を深めていけば、就職活動するときや仕事を続けるうえでもプラスになります。

    お住まいの地域で気になる就労移行支援事業所があれば、ぜひ問い合わせてみましょう。

     

     

    ※コラム中の画像は全てイメージです

     

     

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執筆:コラム編集部
執筆:コラム編集部
医療・福祉分野で主に障害のある方の支援を10年以上従事。これまでの経験とノウハウを活かし、さまざまな事情から不調になり休職したり、働けなくなったりした方向けに、復職や就職などの“働く”をテーマに少しでも役立つ情報を執筆。
監修:吉村 紘樹
監修:吉村 紘樹
障害者雇用に関する企業、行政に向けたコンサルティング業務に長らく従事し、児童分野においても児童発達支援・放課後等デイサービスのエリアマネジメントを経験。福祉業界で自社・他法人含め人材育成や人事制度策定・サービス開発のアドバイザリーや、ひきこもり・生活困窮者の就労支援等も経験し、現在は株式会社Rodinaにて休職者支援をおこなっている。