休職者が復職にあたって整理しておきたいこと

2022/4/12 最終更新

厚生労働省の平成30年「労働安全衛生調査」によると、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1ヵ月休業した労働者の割合は、0.4%と報告されています。これは労働者人口をおおよそ6,000万人と計算すると、およそ24万人におよびます。

さらに、メンタルヘルス不調による休職で注目したいことは、休職者数の多さだけでなく再発率の高さです。メンタルヘルス不調による休職者の復職後4年内の累積再病休率は47.1%(文献)に及ぶという調査もあります。

職場復帰を検討する際、ただ復帰することを目標にするのではなく、復職後も健康にいきいきと働き続けることも視野にいれることが重要です。筆者は多くの休職者と出会うなかで、疾病から改善することだけではなく、休職者自身が自らの経過を振り返りながら再発予防について検討することが重要であると感じてきました。

今回は、休職者自らが復職に向けて整理しておくことが望ましいポイントを3段階に分類して紹介します。

  • 休職に至った心当たりを整理しましょう

    休職に至った心当たりを整理しましょう

    メンタルヘルス不調で休職となった場合、職場に対して申し訳ない気持ち、やり場のない怒りなどさまざまな気持ちが混ざり合います。また重篤な場合、何も考えられないこともあります。そのような場合でも、しばらく安静に休職を続けていると、少しずつ冷静に現状を考えることができるようになります。まずは心身の復調に専念しながらも、落ちついた際には休職に至った心当たりを整理してみましょう。メンタルヘルス不調が悪化する原因は、意図しない事故や災害を除くと、複合的な要因が組み合わさっていることも多々あります。復職前には、自分が休職に至ることになった心当たりを整理しておくことが望ましいです。過去を振り返ることは辛い作業かもしれません。しかし、辛い過去を振り返ることで、復職後に同じ過ちを繰り返さないように心がけることができます。

     

    例えば、職場全体の業務負荷が高まったときに、家族の体調が悪化したことが重なって不調につながった場合を考えてみます。まずはその原因を冷静に振り返ることは大切です。業務負荷が高まった原因は何なのだろうか、業務負荷について何か対策はとれなかったのだろうか、家族に対して何ができたのか、どうしたら不調を防げたのだろうか、ということを考察しておくことは、復職後に同様の事態が生じた際の再発予防につながります。復職判断をおこなう産業医および人事担当者の面談でも問われることが多い事項ですので、振り返りをして言葉で説明できるようにしておくことが望まれます。

  • 復職後、再休職しないよう気をつけることを整理しましょう

    復職後、再休職しないよう気をつけることを整理しましょう

    職場復帰は復帰できれば終わりではありません。前述したようにメンタルヘルス不調による休職は再休職率が高いため、再発防止のためにできることを検討したうえで職場復帰することが望まれます。復職後はこれまでの不調を挽回すべく頑張りすぎてしまい、その反動で疲労してしまうことは多々あります。このようなことを防ぐため、復職前に前もって再休職しないよう留意点を整理しておくことは重要です。

     

    具体的には、定期的な通院を欠かさない、睡眠等の生活習慣を整える、業務の報告・連絡・相談を徹底する、これまでは困りごとを抱え込んでいたが今後は関係者に相談する、といったことがあげられます。復職後も働き続けている限り、ある程度は心身に負担がかかってしまいます。困難な状況を乗り越え、再び辛い状況に陥らないためにも、復職前から体調不良を予防する対策を講じておくことが望まれます。

  • 万が一、体調不良になった時にとる対応を想定しておきましょう

    万が一、体調不良になった時にとる対応を想定しておきましょう

    休職に至った心当たり、再休職しないよう気をつける点を整理したうえで職場復帰したとしても、実際に勤務を再開してからは想定外の出来事が生じることもあります。想定外の出来事に直面した場合、心身の健康悪化のリスクが高まります。こうした予想をしていない事態に備えて、そのときにできる対応について事前に心づもりしておくことも大切です。

     

    例えば、健康管理面では産業医・保健師・カウンセラーなどの産業保健スタッフに相談する、業務においては信頼できる上司あるいは人事担当者に相談する、体調管理に関しては主治医に相談するなど、内容によって複数の相談先を用意しておくことができます。各相談先はそれぞれの内容に関して復職者の有益なサポーターです。いずれの相談先であっても、再休職にならないよう最善の助言を提供してもらえます。一度休職したからといって気後れせずに、復職後に不安を感じた場合は、これらのサポーターに早めに相談することが望ましいでしょう。

  • おわりに

    ここまで、休職者自らが復職に向けて整理しておくことが望ましいポイントを紹介しました。振り返るタイミングは日常生活が安定して復職を意識し始めた頃がよいでしょう。職場では大切な従業員を守るべく、メンタルヘルス不調者を発生させないための働き方改革や職場環境づくりを意識するようになりつつあります。一方で、従業員自身もメンタルヘルスリテラシーを高め、自分自身でできるセルフケアに努めることが求められています。うまく整理できない場合、主治医・リワークスタッフ、所属先の産業医・保健師・カウンセラー、所属先が契約している外部EAPなどに相談することもできます。それぞれの事情に照らし合わせながら、休職の経緯を振り返り、再休職予防のためにできることを整理しておきましょう。

     

    文献:遠藤源樹(2017).中小企業のためのメンタルヘルス不調社員実務対応・復職支援ハンドブック 平成29年度日本フルハップ研究助成報告書
    https://www.nfh.or.jp/news/tyouken/2017/03houkoku.pdf(2021/7/25閲覧)

     

    ※コラム中の画像は全てイメージです

執筆:坊 隆史(東洋学園大学人間科学部 准教授)
執筆:坊 隆史(東洋学園大学人間科学部 准教授)
公認心理師、臨床心理士。電気機器製造業、精密機器製造業の心理職として、職場のメンタルヘルス業務に従事。 2018年より現職。専門は臨床心理学、精神保健学。 この分野の著書として「産業・組織心理学―個人と組織の心理学的支援のために」(ミネルヴァ書房、分担執筆)などがある。