産業医はメンタル不調者の復職可否をどう判断するの?

メンタル疾患で休職しても、しっかりと療養して治療を受けることで、多くの人は症状が次第に改善し安定していきます。そして「そろそろ復職を考えてみようかな」という時がきますが、いったいどういったことを考えて復職の準備を進めていけば、うまくいくのでしょうか?

ここでは私が産業医として復職に際しての面談をおこなう時に重視している3つのポイントをご紹介いたします。

復職後に病気を再発・再燃させないためにもしっかりと復職に向けて準備していきましょう。

  • 病気と仕事についての理解

    職場復帰してから大切なことは、業務がきちんと遂行できること、そして病気が再発・再燃しないことです。そのためには、病気や仕事について冷静に客観的に考えることができている必要があります。私の場合は下記のようなことを産業医面談で確認しています。

     

    今回どういったきっかけや原因で病気となったのか

      特に業務との関連性

      業務上のストレスは何か(業務量、業務内容、対人関係など)

    休業後どのようにして回復したのか

      症状安定には何が寄与するのか(薬物療法、きっかけなど)

      本人自身の支援体制(家族、友人など)

    復職後に懸念されること

      復職後に想定されるストレス要因

      病気治療中であれば、残存している症状や薬の副作用などが業務遂行にどう影響するか

    復職後、本人が何に気をつけ、職場や会社がどのような配慮をしたらうまくいくのか

      自己保健義務、安全配慮義務の観点からも必要な事項を具体的に

     

    メンタル疾患の場合は、病気の症状が感情や考え方に変化をもたらすことが多く、自分自身を過小評価・過大評価したり、過度に悲観的・楽観的になったり、周囲で起こったことと自分を関連付けてしまう、といったこともよく見られます。事実を客観的に見ることができているかどうかというのは、病状の回復を示唆するものでもあります。

    産業医としては、会社側にも「誰が担当してもメンタル不調をきたしやすい職場」になっていないかを確認します。復職者を受け入れる職場へは、職場環境を整えるチャンスであることを説明し、復職がうまくいくために必要な配慮を共に考えていただくようにしています。

    復職を成功させるために、本人、家族、上司、人事、産業保健スタッフ、主治医といった関係者がある程度の共通認識を持ちながら必要な連携を適宜おこなっていくのが望ましいです。

  • 体力・集中力・生活リズム

    体力・集中力・生活リズム
    ※イメージ写真です

    長期に病気療養生活を送っていると、体力や集中力が低下していたり、生活リズムが崩れていることも多いです。復職前にこれらをしっかりと整えておく必要があります。

    産業医面談では「休職中なのでゆっくり生活していました。仕事に戻れば生活リズムも整うので大丈夫です」とおっしゃる方も結構多いのですが、それでは復職するための準備が整っているとはいえませんし、復職後に大変苦労することになります。1日の生活リズム・睡眠リズムには様々な体内のホルモンが関わっており、それらが整うには数週間程度は時間がかかると思われるからです。

    例えば、復職後に朝7時に起きて8時過ぎに家を出る必要があるのであれば、復職前に朝7時に起きるのが普通になるまで生活リズムを整えましょう。そして身なりを整えて8時過ぎに家を出て、日中は目的を持って行動しましょう。体力を回復させるために運動をしたり、集中力を養うために図書室などを利用するのもよいでしょうし、リワークを積極的に利用していただくのもよいです。

    生活リズム調整のためには、生活記録表を利用することを強くお勧めいたします。起床・就寝時間、食事時間、活動内容とともに、病状の自己評価や疲労度などを点数化して記載しておくと、自分の生活状況が客観的によくわかると思います。日によって調子に波があるような場合は、復職はより慎重に判断したほうがよいサインです。十分に準備して復職したケースにおいてすら、復帰後に「思っていたより体力が落ちていたので復帰直後はしんどかった」との声をよく聞きますので、休職中に十分な調整しておきましょう。

  • 適切な復職のタイミング

    適切な復職のタイミング
    ※イメージ写真です

    「職場のみんなに迷惑がかかっているから」という理由で早目の復職を希望される方はとても多いです。

    病状として、自責感、罪悪感、不安焦燥感といったものが残っているのかもしれませんし、何らか周囲に償いたい、という思いが強いのかもしれません。しかし、早すぎる復職は病状の再燃をもたらし再休職のきっかけを作ってしまいます。再休職になると自分自身への信頼感が低下し、病状をさらに悪くしてしまいかねません。就労意欲があることはよいことですし、「長く休んで周囲に申し訳ないな」という気持ちも理解できます。しかし、職場復帰には適切なタイミングというのがあります。病状の回復にはそれぞれ必要な時間があり、それは努力で短くするようなものではありません。それに数ヵ月早く急いで復職したところで後に振り返れば大した差ではありません。周りの人も「早く職場復帰するよりも、しっかり回復してから職場復帰してほしい」と思うのではないかと思います。

    適切なタイミングを見計らって復職しましょう。

     

    復職に際しては様々な要因が関わってきます。金銭面、休職満了日、家族状況、職場の状況、繁忙期かどうか、人事異動の時期、社内制度などです。

    職場が落ち着いている時期、本人をサポートする余裕のある時期に復職をおこなうほうが、復職もうまくいく可能性が高いでしょう。本人としては、病状が改善してよいタイミングだったとしても、会社としては繁忙期でありなかなか本人にサポートできない状況もあり得ます。休職中に会社や職場としっかりすり合わせをして計画的に復職するのが望ましいといえます。

執筆:冨田 洋平
執筆:冨田 洋平
広島生まれ。2004年熊本大学卒。精神科臨床を行う中で、職場を知り職場へアプローチする必要性を感じ、産業医活動を開始。 現在は、医療法人せのがわ 瀬野川病院 にて週2回外来診療を行いつつ、広島市内を中心とした10数カ所の事業場にて、産業医や精神科産業医として産業保健活動をおこなっている。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野が主催する、職場のメンタルヘルスの専門家を養成するための研修プログラム(TOMH基礎コース4期、イノベーションコース)受講者であり、「働きやすい職場づくり」をモットーに、特に職場のメンタルヘルス対策に力を入れている。