休職期間中にスキルアップが必要、と簡単に言いましたが、「それができるなら苦労はしない」と思う人は多いはずです。実際、人が自分ひとりで身につけられるスキルというのは限られています。
対人関係や社交性、他のいろいろな点においてもです。
ここで、子ども時代を思い出してみましょう。体育の授業で逆上がりや縄跳びで苦労したことはありませんでしたか?
逆上がりができなくて苦労したとき、運動の得意な子にコツを教えてもらったり、そのような友人の真似をして、できるようになった記憶はないでしょうか。
もしかしたら、友人ではなく先生の工夫やアドバイスのおかげで、逆上がりができるようになったかもしれません。
補助板を使い、先生のサポートを受けることで、初めての逆上がりを成功させ、コツをつかんだという人もいるかと思います。
このときその人は「逆上がり」という運動のスキルを一つ身につけたのです。どんなプロセスであれ、スキルアップしたという事実は変わりません。
そしてこのプロセスを見たとき、気づくことはないでしょうか。
自分ひとりで努力して実現できることもスキルアップですが、他人の手を借り、熟練者のスキルを真似て達成することもスキルアップです。当たり前のように聞こえますが、人はこのことを忘れがちです。
すべて自分ひとりで学びとり、達成しないといけない、と思い込んでしまうところがあります。
心理学者のヴィゴツキー(※1)は子どもの発達において、このようなことを述べています。
※1:ヴィゴツキーは、発達と教育との関連を考察し、教育は子どもの「現下の発達水準」に基礎をおくのではなく、発達しつつある水準、予測的発達水準に基づいて行われるべきである、とした。(ウィキペディア(Wikipedia)より)
子どもにはすでに習得して、自動的にできる部分があり、ここまでのラインを「ひとりで達成できるレベル」と考えます。
この「ひとりで達成できるレベル」があるのと同時に「他者のサポートや道具の介助によって達成できる、より高いレベル」が存在します。
後者の「より高いレベル」と「ひとりで達成できるレベル」の間が、子どもの伸びしろに当たる部分です。他者や道具があれば達成できるなら、コツさえつかめばひとりでできるようになるでしょう。
今日はひとりでできなくても、明日にはひとりでできるようになるかもしれない可能性を秘めているということになります。
これがヴィゴツキーの理論ですが、大人にも同じことが言えると考えられます。
自分ひとりで頑張って達成できるようになったスキルは、今後も無理なく実践できるものになるはずです。では、大人はそれ以上成長しないのかと言えば、それは間違いです。
実際、私たちはいろいろな場面で他人の手を借り、熟練者のスキルを真似ることで、「ひとりでできる」以上の成果を上げています。
たとえば、営業スキルに長けた先輩とペアを組むことで、コミュニケーションスキルを盗めます。そうすると、先輩が隣にいなくても、これまで以上の接客ができるようになります。
自分ひとりで頑張っていた時代より、ベースとなるスキルが底上げされたわけです。
このような経験は、日常的に見られることではないでしょうか。だからこそ、熟練者やスキルの高い上司などをメンターとしてつける制度をとり入れる事業所も増えているように思います。
ひとりで学ぶのもよいが、コミュニティで学んだほうがよい。
自分ひとりで解決できない場合は、仲間から学ぼう。心理学の理論や、何よりあなたの経験がこのようなアドバイスを与えてくれているのです。