たとえば、うつ病を患い休職。しばらくは治療に専念し自宅で休養していた方も、回復が進むにつれ、何かしてみようという気力がわいてきます。それまでは、外の世界とかかわりを持てなかったのが、徐々に視野も広くなり、社会的な生活を希求するようになります。
こころのエネルギーが少しずつたまり始めた兆しと言えるでしょう。
この時期は職場復帰のためのリハビリ期にあたり、スムーズに職業生活に戻るためのトレーニングを行うのがいいと言われています。
しかし、トレーニングと言われても、具体的に何をすればよいのかわからない人のほうが大半ではないでしょうか。世の中には復職のための書籍もあふれていますが、選ぶだけでも一苦労です。
近年『リワーク』という概念が広まりつつありますが、これは『return to work』の略語であり、精神疾患が原因で休職している方を対象にした復職支援を意味します。
リワークプログラムは専門機関で受けることができ、多くの場合、病気に対する理解を深めたり、病気の再発予防のための講座を受講できます。このコラムでも紹介した認知行動療法を取り入れている機関も多いです。
このような専門機関を利用するメリットは大きく分けて二つあります。
ひとつは、復職に特化した専門的なトレーニングを受けられることです。
自宅でセルフリワークを行う方も少なくありませんが、リワークプログラムを受講し復職したケースと比較すると、復職後の再休職率が異なります。リワークプログラムを受講し、復職したほうが就労継続性は良好であると言われています。(参考文献:五十嵐良雄 2018 『日本労働研究雑誌』No.695(外部リンク))
専門家の指導を受けながら復職の準備をおこなうことは、再休職予防の観点から見ても、大きな安全材料になるでしょう。
同時に、このような専門機関を利用することで、同じ目的を持つ人々と出会うことができるという利点があります。これが二つ目のメリットです。
一人暮らしで休職した方は、他者とかかわることもなく、社会生活から切り離され、日々の生活を送ることになりかねません。このようなケースでは、症状が悪化したり、困りごとが発生した場合にも、誰にも相談できないという状況が発生します。
このような社会と断絶した状況は症状を悪化させる可能性があり、順調だった回復を遅らせることにもつながります。社会的に孤立しないことは、この意味からも重要です。
リスクを回避するためにも、専門機関を利用する価値はあるでしょう。
自宅にひとりでいたら見逃してしまう、症状悪化の危険信号に誰かが気づいてくれたり、同じ悩みを持つ人々と話をすることで解決策を見出すことができるのは、安心感をもたらします。
自分ひとりではないと思えることは心強さにもなり、同じ悩みを共有する人たちとつらい状況を一緒に乗り越えていこうという勇気ももらえます。
職場という社会から離れた休職期間中の居場所として、こうした機関は機能し、ふさぎがちになったり、不安が増すのを防いでくれます。
居場所というと子どもっぽい印象を与えるかもしれませんが、人間の心理において居場所が果たす役割は実は小さくありません。
居場所がメンタルヘルスによい影響を与えることもこれまでの研究でわかっています。
職場でバリバリ仕事をしていたころは、職場が居場所だったかもしれませんが、休職期間中は離れざるをえません。職場という居場所の代わりに、専門機関を利用することで、「自分を受け入れてもらえる場所がある」、「自分も社会生活に参加している」という安心感を得てみましょう。
それだけでも、休職期間の生活は無味乾燥ではなくなるはずです。身の置き所がないという不安感も低減されます。