教員の休職制度や復職プログラムとは? うつ病や適応障害を再発しないポイントなどご紹介

  • 精神疾患を発症する教職員

    精神疾患(うつ病や適応障害など)により休職に至った公立学校の教員数はおよそ5,000人で推移していることがわかっています。これは氷山の一角であり、私立学校の教員や、メンタルヘルス不調を抱えながら勤務を続けている教員が隠れていることは言うまでもありません。

    今回のコラムでは、教育現場の現状や教員のメンタルヘルス不調の要因、休職に至った場合どのように過ごせばいいのか、教員が活用できる復職支援プログラム(リワークプログラム)など紹介します。

     

    参考:文部科学省 精神疾患による病気休職者の推移(教育職員)

  • 過酷すぎる教育現場

    教員の休職制度や復職プログラムとは? うつ病や適応障害を再発しないポイントなどご紹介

    教員の就業時間はいったいどれくらいになるのでしょうか。

    調査では、教員が学校にいる時間は、小・中・高で平均11時間以上と言われています。過労死ラインと言われる「月の残業時間80時間」の基準を、小学校の教員で3割、中学校教員で6割が超えていると報告されています。

    勤務時間だけ見ても、教員の労働環境の過酷さが想像できます。

    また、教員の業務内容も多岐に渡り、煩雑なものが多いと言わざるを得ません。
    例を挙げてみると以下のものがあります。

     

    生徒指導

    授業の準備

    教材研究

    書類作成

    部活の顧問

    保護者対応 など

     

    これらに学校特有の問題も加わると、教師の仕事は繁忙を極めるでしょう。学校特有の問題というのは、いじめや不登校、学級崩壊と呼ばれるものです。

    この種の問題は対応を間違えると、ときに子どもの人生に関わります。その分、保護者からのプレッシャーもあり、教師には責任重大な問題です。大きなストレスになることは言うまでもありません。

    さらには、学校という空間は思いのほか狭いものです。人間関係上のトラブルが生じたとき逃げ場がなく、つらい思いをするという話もあることです。

    ここ数年では、新型コロナウィルスの問題にも教員は悩まされてきました。児童・生徒を感染させないよう細心の注意を払うことはもちろん、オンライン授業の導入や学習スタイルの変化など、新しい環境に慣れなければなりませんでした。

    新型コロナの問題は教員に限ったことではありませんが、これだけ並べただけでも教師の負担は並大抵のものではないと想像できます。

    このような労働条件にもかかわらず、公立学校の教員は給特法により、残業代を支払われない仕組みになっていました。これでは教育現場はブラックな職場と言われても無理はありません。

  • 教員のメンタルヘルス不調要因

    教員のメンタルヘルス不調要因

    これだけストレスフルな環境に置かれていれば、メンタルヘルス不調を来たしても仕方がありません。しかし、調子を崩しかけても病院を受診するのはなかなかに勇気がいるようです。

    どの職種でも、メンタルヘルスの病院にかかるのは勇気が必要と思いますが、教職の場合はとりわけ周囲のまなざしが気になるのではないでしょうか。

    最も気にかかるのは保護者からの評価かもしれません。メンタルヘルス不調を訴えた先生に、わが子を任せてよいのかという保護者の声は教員にとって心が痛む話です。

    このような周囲の声は、保護者の側に立てば理解できるかもしれませんが、教員の側からすれば受診への高いハードルとなります。教職という立場上受診をためらい、限界まで我慢してしまう。ある朝、起きられなくなって、初めて自分の不調に気づくということもあるのです。

    教師は、真面目で手を抜けない性格の人も多いです。しっかりと生徒と向き合い、関係性を作っていきたいと考えていることでしょう。当然、授業もきちんと教えたいはずです。そのためにプライベートの時間を削ってでも、学校の業務に時間を割きます。

    このような状況で、学級崩壊やいじめ、不登校という問題が生じたらどうでしょうか。

    これらの問題は複雑で、簡単に解決できるものではありません。しかし、保護者や関係者はできるだけ早く解決してほしいと望みます。一方で、責任感の強い教員は解決に至らなかった場合、自責の念に駆られます。

    真面目な教員ほど、この種の問題に取り組むごとに、無力感や罪悪感にさいなまれます。

    真面目で責任感が強く、適度に手抜きができないというのは、うつ病患者のイメージと重なります。性格的な部分でメンタルヘルス不調を来たしやすいという要因と、過重労働や人間関係の問題という環境的な要因が重なり合うとき、教員は心の不調を訴えるのかもしれません。

     

    参考:厚生労働省 ご存知ですか?うつ病|こころの耳

  • 教員の休職中の過ごし方

    教員の休職中の過ごし方

    教員の休職の困難は、ひとつに仕事の引継ぎの難しさがあります。たとえば、クラスで担任を持っていると、学期の途中で担任を降りなければなりません。そうすると、児童・生徒は混乱しますし、場合によっては保護者からの苦情案件になります。

    無理を押してでも働き続けたい気持ちはやまやまでしょうが、早期発見、早期治療が肝心です。

    メンタルヘルス不調を来たしたときには、まずはゆっくりと療養し、元気を取り戻すことに専念したほうがよいでしょう。

    治療に専念できるように、教員には手厚い休職制度が用意されています。

     

    ①病気休暇

    ②病気休職

    ③傷病手当金

     

    病気休暇は最大90日取得できる(日数は自治体によって異なります)もので、その期間の給与は全額支給されます。ただし、一部支給されない手当てもありますので、個々に確認が必要です。

    また1週間を超えて病気休暇を申請するためには、医師の診断書が必要になります。かならず受診して、診断書を取得してください。

    病気休暇の期間を過ぎても調子が戻らない場合、病気休職を取得することになります。この病気休職は期間が1年となり、給与が全額ではなく8割程度になることが病気休暇との違いです。

    病気休職の期間は、最大3年間の身分の保証がなされています。給与が支給される期間が切れても、公立学校の共済組合に入っている場合は、傷病手当金を受給できます(最大1年6ヵ月)。

    傷病手当金は給与の3分の2程度になります。自治体によって異なることもありますので、詳しくは加入している共済組合にお問い合わせください。

    経済的な不安を抱えていると、落ち着いて療養もできません。まずは不安を取り除き、しっかりと療養できる準備を整えましょう。

    その上で、メンタルヘルス不調で休職した場合、どのような点を意識して日々を過ごせばよいか考えていきます。

    休職し始めの頃は、日常生活もままならないことがあるかもしれません。布団から出られず、一日中うつうつとした気分でいることもあるでしょう。このような時期は回復の途中ですので、主治医の指示に従い、心身の回復を目指して療養に専念します。

    これは休職中から復職後まで通して言えることですが、自己判断で通院を止めたり、服薬を中断したりは禁物です。病気が治り、主治医の許可が出るまでは、自己判断は控えましょう。

    少しずつ気力が出てきたら、生活リズムを整えることを意識してみます。決まった時間に起床し、夜更かしをせず就寝しましょう。休職中は昼夜逆転していることも多いですから、復職に向けて体調を整えることを目指します。

    こうして、体調が整ってきたら、復職に向けてのリハビリテーションをおこなう準備ができてきます。

    休職期間を休むことにあてるのはもちろん重要ですが、復職したのちも病気を再発せず、安定して働けるためのリハビリをおこなっておくことが大切です

    このようなリハビリテーションプログラムをリワークプログラムと言い、職場復帰にあたって効果が認められています。

    次章ではこのリワークプログラムについて紹介したいと思います。

  • 教員が使えるリワークプログラム

    教員が利用できるリワークプログラム(職場復帰支援プログラム、復職プログラム)は以下のように大別できます。

     

    ①教育委員会が実施するもの

    ②民間団体が運営するもの

     

    第1に教育委員会が実施するものとして、主に試し出勤があります。この試し出勤は期間を決めて、段階的に目標を定め、達成できるか確かめながら、元の職場に戻っていくものです。

    たとえば、最初の1週間は週2日の2時間出勤で負荷のかからない業務から始め、2週目は週3日の午前中の出勤、軽作業に加えて人とのかかわりを増やす、などです。

    最終的にはフルタイムで通常勤務に近い形で働けることを目指します。休職明けの出勤は本人にとって緊張感があるものです。

    このように段階を踏むことで、休職者は職場に徐々に慣れていくことができますし、職場側は休職者の回復状況を判断することができます。

    教育委員会が実施する職場復帰支援は、自治体によっては、医療機関のリワークプログラムと連携しているところもあります。

     

    第2に民間が運営しているリワークプログラムを紹介します。リワークプログラムを提供する民間の施設はさまざまありますが、リワークセンターもそのひとつです。

    リワークセンターでは、病気の再発を防ぎ、長く安定して働けるためのプログラムを提供しています。

    そのために、起床、就寝、食生活など生活リズムを整えることから始めます。生活リズムの安定は仕事に復帰した際のベースラインになるからです。その上で、ストレスマネジメントのスキルを高める講座や、コミュニケーション能力を高める講座を受講します。

    これらの講座を受講することで、ストレスを溜めやすい自分の考え方のクセを見直し、ストレスへの対処法を学べたりします。また、対人関係もストレスの原因になりやすいものですが、コミュニケーションのとり方を変えるだけで、あり様が変わります。

    最も大切なのは、どうして自分が病気になったのかという振り返りでしょう。働き方に無理はなかったか、対人関係にストレスを感じていなかったか、ストレスにうまく対処できていなかったのではないか。このような要素を整理します。

    整理をおこない、課題を見つけ出すことで、課題に対する対策が立てられます。この対策を持って復職することが、病気の再発防止に有効です。

    リワークセンターのプログラムは復職後のケアもおこなっています。うつ病の再発率は60%とも言われていますので、復職後のケアまで視野に入れて、リワークプログラムを選ぶのもよいかもしれません。

     

    参考:厚生労働省 職場復帰のガイダンス

  • 復帰後にうつ病や適応障害など再発しないために

    教師の過酷な職場環境、そこから来るメンタルヘルス不調について紹介しました。

    身体の不調感だけでなく、心の不調に気づいたときは速やかに受診し、休職することをお勧めしています。教員には手厚い休職の制度が整えられており、心置きなく治療に専念できるからです。

    まずは、仕事から離れ、ゆっくり休養し、心身の回復を目指しましょう。

    真面目で仕事熱心な人も多い教職ですが、無理を押して仕事をしてもよい結果を生むとは限りません。休むことに罪悪感を覚える人もいるかもしれませんが「休むのも仕事のうち」と考えて、病気の治療に専念してください。

    そして、回復が進んできたら、休職期間をリハビリテーションの時期としてあててみるとよいでしょう。

    リワークプログラムの効果は先行研究でもわかっています。ゆっくりと休みをとれるのであれば、時間をかけてリワークプログラムに取り組み、不安や心配のない状態で職場復帰を目指したいものです。

    しっかりと準備を整えて復職することが再発防止につながります。

     

     

    ※コラム中の画像は全てイメージです

執筆:藤澤 佳澄
執筆:藤澤 佳澄
大阪大学 大学院人間科学研究科 博士後期課程単位取得退学。大阪大学非常勤講師をはじめ、各種教育機関で教鞭をとる。 メンタルクリニックにて十年弱心理職として従事。「体験型ワークで学ぶ教育相談」(大阪大学出版会)一部執筆。現在は特定非営利活動法人Rodinaの研究所にて、リワークを広く知ってもらうための研究や活動をおこなう。