抑うつとは? 抑うつ状態とうつ病の違いや症状・治療方法を解説
2025/9/18 最終更新
「抑うつ」とは気分が落ち込み、憂うつな状態を指す言葉です。この記事では、抑うつ状態とうつ病の違い、抑うつになる原因やなりやすい人の傾向、心と体に現れる具体的な症状を詳しく解説します。
また薬物療法やカウンセリングなどの治療法、気になる症状があるときの相談先についても紹介します。
2025/9/18 最終更新
「抑うつ」とは気分が落ち込み、憂うつな状態を指す言葉です。この記事では、抑うつ状態とうつ病の違い、抑うつになる原因やなりやすい人の傾向、心と体に現れる具体的な症状を詳しく解説します。
また薬物療法やカウンセリングなどの治療法、気になる症状があるときの相談先についても紹介します。
病気や障害のこと、暮らしのこと、
お金や社会保障制度のこと、そして仕事のことなど、
何でもご相談ください。

抑うつとは、気分が落ち込んで憂うつになったり、ものごとへの興味や喜びを感じられなくなったりする心の状態を指します。日常で起こる一時的な気分の落ち込みも含まれますが、この状態が長く続き生活に支障をきたすと「うつ病」と診断されることもあります。
原因は過度なストレスや環境の変化などさまざまです。抑うつはあくまで「状態」であり、治療が必要な「病名」であるうつ病とは区別されます。
特に気をつけたいのが、以下のような傾向のある人です。
真面目で責任感が強い
完璧主義
人に頼るのが苦手
抑うつ状態とうつ病はしばしば混同されますが、医学的には異なる意味で使われます。「抑うつ状態」は病名ではなく、気分が落ち込んでいる状態そのものを指します。仕事の失敗などによる一時的な落ち込みもこれに含まれます。一方の「うつ病」は、治療が必要な病気の診断名です。うつ病の診断は、症状の数や持続期間、生活への支障の程度から、国際的な診断基準(DSM-5など)にもとづき医師が慎重に診断をおこないます。
たとえばDSM-5では、以下の症状のうち5つ以上が2週間以上続き、そのなかに1または2のどちらかが含まれることが基準のひとつとされています。
1.抑うつ気分
2.興味・喜びの喪失
3.体重や食欲の明らかな減退/増加
4.不眠・過眠
5.焦燥感/思考や動きの遅延
6.疲れやすさ/気力の減退
7.無価値観/罪責感
8.思考力・集中力の低下
9.死について考えてしまう
このように抑うつ状態はうつ病の症状のひとつですが「抑うつ状態=うつ病」ではない、という点が大きな違いです。
抑うつ状態は単一の原因ではなく、精神的なストレス、環境の変化、身体的な要因などが複雑に絡み合って引き起こされると考えられています。
精神的な原因のひとつが、日常生活で感じるストレスです。特に環境が大きく変わるタイミングは、心が不安定になりやすく注意が必要です。
職場では長時間労働や過度な業務負担、昇進・異動のプレッシャー、人間関係の悩みなどが原因として挙げられます。また家庭においても、妊娠・出産・育児・介護の悩み、家族との不和や死別といった出来事は生活に大きな変化をもたらし、抑うつ状態の引き金となることがあります。
身体の健康状態も心に大きく影響します。甲状腺機能低下症やがんなどの病気の症状として、抑うつ状態が現れることがあります。また女性の場合は月経や妊娠・出産、更年期にともなうホルモンバランスの急激な変化が気分の落ち込みに繋がりやすく、脳内の神経伝達物質のバランスが崩れることも原因のひとつと考えられています。
抑うつは年齢や性別、社会的地位にかかわらず誰もがなりうる状態です。ただしもとの性格傾向によってストレスを溜め込みやすく、抑うつ状態に陥りやすい人がいることも知られています。一般的に以下のような人は注意が必要といわれています。
真面目で責任感が強い:何ごとにも一生懸命で、すべての責任をひとりで背負い込みがちです。心身の限界を超えても頑張り続けてしまう傾向があります。
完璧主義:高い理想を持ち、些細なミスや不完全さが許せません。そのためプレッシャーを感じやすく、自分を責めてしまいがちです。
人に頼るのが苦手:「迷惑をかけたくない」という思いが強く、自分のつらさをなかなか口に出せません。
感情表現が苦手:自分の感情、特に怒りや悲しみといったネガティブな感情を内に溜め込んでしまう傾向があります。
これらは長所として評価されることも多いですが、ストレスへの対処がうまくいかずに心のエネルギーを消耗しやすくなります。
抑うつ状態になると、心と体の両方に不調が現れることがあります。
単なる気分の落ち込みとは違い、今まで楽しめていたことに興味がなくなったり、原因のわからない体調不良が続いたりする場合は注意が必要です。
精神症状:気分の落ち込みや憂うつ感、意欲や興味の低下、集中できない、自分を責めてしまうなど、心に現れる症状
身体症状:眠れない、食欲がない、疲れやすい、頭痛や肩こり、めまい、動悸など、体に現れる不調
抑うつ状態のとき、心には以下のような症状が多くみられます。
気分の落ち込み:理由もなく悲しい気持ちになったり、気分が沈んで憂うつになったりします。特に午前中に症状が重く、午後になると少し楽になる「日内変動」が見られることもあります。
意欲・興味の低下:これまでの趣味や活動に対して、興味がわかなくなります。テレビ番組の内容が頭に入らなかったり友人と会うのが面倒になったりするほか、仕事や家事などやるべきことへの意欲も低下します。
思考力・集中力の低下:注意力が散漫になり、集中しづらくなります。読書でも同じ行を何度も読み返したり、人の話が理解できなかったりします。また決断力が低下し、たとえば「今日の夕食の献立」といった些細な決定が負担になります。
自己評価の低下:ものごとをすべてネガティブに捉えるようになります。「自分はダメな人間だ」といった無価値観にさいなまれたり、過去の些細な失敗を思い出して過剰に自分を責めたりします。
原因不明の体調不良が続き、内科などを受診しても異常が見つからない場合は心の問題の可能性もあります。
睡眠障害:「寝つきが悪い(入眠障害)」「夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)」「朝早く目が覚めてその後眠れない(早朝覚醒)」といった不眠の症状が代表的です。逆に、どれだけ寝ても眠気が取れない「過眠」に悩まされる人もいます。
食欲の変化:「食べる気がしない」「味がしない」といった食欲不振に陥り、体重が著しく減少することがあります。反対に、不安を紛らわすために甘いものなどを過剰に食べてしまい、体重が増加するケースもあります。
全身の倦怠感・疲労感:十分な休息をとっているはずなのに体がだるく、重い疲労感が抜けない状態が続きます。朝、起き上がるのが非常につらく感じられることもあります。
その他の身体症状:上記以外にも、頭痛や肩こり、動悸、めまい、吐き気、便秘・下痢など、全身にさまざまな症状が現れることがあります。女性の場合は、月経不順や月経痛の悪化が見られることもあります。
抑うつ状態の治療は、基本的には「休養」「薬物療法」「精神療法」の3つを組み合わせておこないます。
まずは心と体をしっかりと休ませ、そのうえで必要に応じて薬の力を借りたり、専門家との対話でストレスへの対処法を身につけたりします。
休養:心身のエネルギーを回復させるため、十分な休息を取ります。
薬物療法:医師の処方のもと、抗うつ薬などで症状の緩和を目指します。
精神療法:カウンセリングなどを通じて、ストレスへの対処法や考え方を見直します。
抑うつ状態の治療において、何よりも優先されるのが十分な休養です。心の疲弊は充電バッテリーが切れたようなものです。まずは充電期間を確保し、エネルギーを回復させる必要があります。無理に活動を続けると症状が悪化し、回復が長引きかねません。仕事や家事から一時的に離れ「何もしない時間」を意識的につくることが大切です。休むことに対して罪悪感を覚えるかもしれませんが、これは治療のために不可欠です。
休養とあわせて、環境を見直すことも重要です。
ストレス要因の除去:職場の過重労働が原因であれば、上司や産業医に相談し、業務量を調整してもらう、配置転換を依頼するなどするとよいでしょう。人間関係が原因の場合は、その相手と物理的な距離を置くことも有効です。
生活リズムの改善:不規則な生活は心身の不調を助長します。できる範囲で、毎日決まった時間に起きる/寝ることを心がけましょう。朝は太陽の光を浴びることで、体内時計がリセットされやすくなります。
休養だけでは改善が難しい場合や症状が重い場合、薬物療法が検討されます。その目的は、薬でつらい症状を和らげ、治療に必要なエネルギーを回復させることです。
ここで中心となる抗うつ薬には、脳内のセロトニンやノルアドレナリンといった気分や意欲に関わる神経伝達物質のバランスを整える働きがあり、効果が現れるまでには通常2週間から1ヵ月程度の時間がかかります。現在では副作用が比較的少ないとされる薬剤が主に使われますが、人によっては飲み始めの時期に吐き気や眠気、頭痛などの副作用が現れることがあります。また不安や不眠が強い場合には、抗不安薬や睡眠導入剤があわせて処方されることもあります。
薬物療法でもっとも重要なのは、必ず医師の指導のもとで服用を続けることです。自己判断で薬をやめてしまうと、症状が再発したり離脱症状が出たりする危険性があります。薬の量の調整や中止は、必ず医師と相談しながら慎重におこなってください。
心理療法(精神療法)は、専門家(カウンセラー)との対話を通じて悩みや考え方の癖と向き合い、ストレスへの対処能力を高めていく治療法です。
代表的な心理療法には下記のようなものがあります。
認知行動療法(CBT):ものごとの受け取り方(認知)に着目し、ストレスを感じたときに浮かぶ悲観的な考えに気づき、それが現実的かを検証します。そのうえで、よりバランスの取れた考え方ができるように練習していく方法です。
対人関係方法:対人関係のストレスに着目し、現在の人間関係のなかで何がストレスの原因になっているかを明確にします。そのうえで、コミュニケーションのパターンを見直すことで問題解決を図る方法です。
心理療法は問題の根本的な原因に向き合うため、抑うつ状態の再発を予防する効果が期待できます。またカウンセラーとの信頼関係のもとで、安心して自分の気持ちを話せる場を持つこと自体が心の支えとなります。

「気分が晴れない日が続く」「何をしても楽しめない」「眠れない」といった症状に気づいたら、ひとりで抱え込まずに専門家へ相談しましょう。早期に適切なサポートを受けることが症状の悪化の予防につながり、回復をうながすための第一歩となります。
主な相談先として、以下のような窓口があります。
精神科や心療内科などの医療機関
臨床心理士や公認心理師などによるカウンセリング
公的機関・職場の相談窓口(保健所、会社の産業医や相談室など)
心の症状が2週間以上続いたり日常生活に支障が出たりしている場合は、心療内科や精神科の受診を検討しましょう。
心療内科はストレスが原因の体の不調を、精神科は気分の落ち込みなど心の症状全般を専門としますが、迷う場合は通いやすいほうで問題ありません。診察では主に問診がおこなわれ、診断と今後の治療方針が決定されます。
初めて受診する際は、事前に以下の点をメモしておくとスムーズに症状を伝えられます。
いつから、どのような症状があるか
症状によって、生活で困っていること
考えられるストレスの原因
現在服用中の薬(お薬手帳など)
既往歴やアレルギーの有無
医療機関での治療と並行して、または「病院に行くのは少し抵抗がある」と感じる場合にカウンセリングルームを利用するのも有効です。
カウンセリングルームでは、専門家が対話を通じて相談者自身の力で問題を整理し、解決していけるようにサポートします。医師がおこなう診断や投薬とは異なり、認知行動療法などの専門的な心理療法を用いて、悩みの根本的な原因にアプローチするのが特長です。
選ぶ際には、以下の点を参考にすると良いでしょう。
「臨床心理士」や「公認心理師」など、専門資格の有無
カウンセラーの得意分野(職場のストレス、家族問題など)
料金体系や1回あたりのカウンセリング時間、予約の取りやすさ
ウェブサイトを見たり初回相談を利用したりして、自分が安心して話せると感じる場所を見つけましょう。
医師と心理士には守秘義務があるため、安心してご自身の状態を相談してください。
抑うつ状態の原因や症状、治療法について解説しました。抑うつは誰もが経験する可能性がありますが、重要なのはひとりで抱え込まずに適切な対処をすることです。
体の不調を感じたら内科に行くように、心の不調を感じたら精神科や心療内科、カウンセリングといった専門家のサポートを頼ることが大切です。十分な休養を取り、必要に応じて治療を受けることで心は回復していきます。なにより早期の対応が、健やかな毎日のための第一歩となるでしょう。

診断書に「抑うつ状態」とあれば、心身の不調が強く、治療と休養が必要なサインです。
まずは医師の指示に従い休養を最優先してください。
職場と相談して休職や業務量を調整し、罪悪感を持たずに回復に専念しましょう。
※コラム中の画像は全てイメージです
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