聴覚過敏とは? 原因・症状・治し方から大人が仕事中にできる改善方法を徹底解説!

2025/7/16 最終更新

環境音が気になってしまう、聴覚過敏とは? その原因や症状、一般的な治療方法を徹底解説。

日常生活で不快な音に悩む方向けに、発達障害やうつ病との関連、仕事中にできる対処法、セルフチェック方法まで紹介します。

  • 聴覚過敏とは

    聴覚過敏とは

    聴覚過敏とは、多くの人が気にならない日常の音に対して強い苦痛や不快感を覚えてしまう状態のことです。

    これはなんらかの理由で音の情報を処理する脳の機能に変調が生じ、一般的な音量でも過剰に反応してしまうために起こります。

     

    この症状により、会話や仕事、通勤・通学といった日々の場面で困難が生じることも少なくありません。

    原因は特定の病気や障害のほか、ストレスや疲労も関係しており、誰にでも起こりうる症状といえます。

     

    音に対する敏感さが引き起こす不快感の正体

    聴覚過敏の人が感じる不快感の正体は、音を脳に伝える聴覚経路、あるいは感情や記憶を司る非聴覚経路のいずれかに変調が生じ、音が脳内で過剰に増幅されてしまうことだと考えられています。

     

    通常、人の脳は必要な音とそうでない音を選別し、不要な音は意識に上がらないように処理しています。

    しかし聴覚過敏の状態ではこのフィルター機能がうまく働かず、あらゆる音が重要情報として認識されるため、脳が過剰に反応して疲弊してしまいます。

     

    たとえば「人の話し声とエアコンの作動音が同じ大きさで聞こえ、会話に集中できない」「食器の小さく甲高い音が頭に突き刺さるように痛い」といった声が聞かれます。

    このように音そのもののエネルギーだけでなく、脳の処理システムの問題が苦痛や不快感を生み出す主な原因となっています。

     

    聴覚過敏と音恐怖症の違い

    聴覚過敏と似た症状に「音恐怖症」がありますが、両者は異なる状態です。

    聴覚過敏は特定の音質や音量に対して不快感を覚えるのに対し、音恐怖症は特定の音(咀嚼音など)に対して極度の嫌悪感や怒りを感じるのが特長です。

     

    治療のアプローチにおいても、聴覚過敏は原因となる身体的な問題への対処や、音に慣れるための訓練が中心となります。

    一方で音恐怖症は、特定の音に対する拒絶感を軽減することを目的とした心理的なアプローチが主となります。

     

    症名

    聴覚過敏

    音恐怖症

    定義

    音の大きさに対する感受性が高まり、多くの人が問題にしない音を苦痛に感じる状態。

    特定の音(例:タイピング音、鼻をすする音など)に対して、強い怒りや嫌悪感、不安などの感情的な反応が引き起こされる状態。

    症状

    音が響く、割れるように聞こえる。耳の痛み、頭痛、めまい。音による疲労感、集中困難。

    特定の音に対する強い怒り、嫌悪感。動悸、発汗などの身体反応。

    原因

    内耳の障害、聴神経の過剰反応、脳の音処理機能の異常、ストレス、発達障害など医学的な原因が背景にあることが多い。

    原因は特定されていないが、脳の特定の神経回路が過剰に反応することが示唆されている。心理的な要因が関与するとも考えられている。

    治療法

    原因疾患の治療、音響療法、認知行動療法、環境調整など。

    認知行動療法、カウンセリング、音響療法などが試みられるが、治療法は確立されていない。

     

    日常で感じる聴覚過敏の症状

    聴覚過敏の症状は、単に「音が大きく聞こえる」というだけにとどまりません。

    その影響は身体的、精神的、そして社会的な行動への制限にまでおよびます。

    具体的には、以下のような症状が挙げられます。

     

    音が頭に響く、割れるように聞こえる

    耳や頭の痛み、めまい、吐き気

    特定の音に対する強い不快感や恐怖感

    音による極度の疲労感や集中力の低下

    不安感、イライラ、気分の落ち込み

    騒がしい場所を避けるようになり、社会的な活動が制限される

     

    これらの複数の症状が相互に関連しあい、日常生活に大きな支障をきたすこともあります。

     

    聴覚過敏によって日常生活で感じる不快な音の種類

    聴覚過敏の人が不快に感じやすい音はさまざまですが、いくつかの性質に分類できます。

     

    まず、甲高い高音は耳に突き刺さるような鋭い痛みを引き起こします。

    たとえば掃除機やドライヤーのモーター音、電子機器の高周波音などがそうで、頭のなかで直接響くように感じられ、強い不快感や頭痛、疲労の原因となります。

     

    次に、低音は体全体に響きわたるような圧迫感が特長です。

    エアコンの室外機や近隣からの重低音などがこれにあたり、継続的なストレスによりめまいなどの身体的な不調につながることもあります。

     

    さらに音の高さに関わらず多くの人を悩ませるのが、予期せず鳴る突発音です。

    食器がぶつかる音やドアが強く閉まる音などが、心臓が跳ねるような強い衝撃や恐怖感を与え、ひどいときには動悸やパニックを引き起こすことも少なくありません。

     

    このように、ひとくちに不快な音といってもその性質はさまざまであり、それぞれが異なる性質の苦痛を当事者にもたらしているのです。

     

    聴覚過敏によって身体に現れる反応とストレスサイン

    聴覚過敏によって音のストレスにさらされると、身体にはさまざまな防御反応が現れます。

    特に代表的なものは、頭痛や耳の痛みです。音が刺激となって、こめかみや後頭部が締め付けられるような緊張型頭痛や、ズキズキと脈打つような片頭痛が誘発される例が多くあります。

     

    また、めまいや吐き気といった症状を伴うことも少なくありません。

    これは音の刺激が平衡感覚を司る三半規管に影響を与えたり、強いストレスによって自律神経のバランスが乱れたりするために起こると考えられています。

     

    特に自律神経系への影響は大きく、不快な音を聞くと交感神経が過剰に反応して緊張状態に陥ることもあります。その結果、全身の筋肉がこわばり、身体の痛みにつながることも考えられます。

     

    こうした状態が続くと慢性的な疲労感や倦怠感にさいなまれ、日常生活を送るだけでも体力を消耗してしまいます。

     

    聴覚過敏の心理的な影響と精神的負担

    聴覚過敏は心理面にも深刻な影響を及ぼします。常に不快な音へ注意が向けられるため集中力が著しく低下し、仕事や会話が困難になることも少なくありません。

     

    また「いつ不快な音に襲われるか」という予期不安から、人混みを避けるようになり、社会的な孤立や抑うつ的な気分を招きます。

    さらに聴覚過敏の症状が周囲に理解されにくいことや緊張状態のストレスも加わり、イライラや怒りなど感情のコントロールが難しくなる場合もあります。

     

    こうした心理的ストレスが長期化すると、うつ病や不安障害といったほかの精神疾患につながる危険性も指摘されています。

  • 聴覚過敏が発症するメカニズム

    聴覚過敏が発症するメカニズム

    聴覚過敏の発症は、単一の原因ではなく、生理学的、心理学的、環境的要因が複雑に絡み合っていると考えられています。

    耳や脳の機能異常といった生理的な問題に加え、強いストレスや疲労などの心理的な状態が音への耐性を低下させます。さらに強い騒音によるダメージや、逆に過度な静寂が脳の感度を上げてしまうといった音の環境も引き金となります。

    これらの要因が相互に影響し合い、音を処理する脳のシステムに変調をきたすことで発症に至ると考えられています。

     

    耳の機能異常が引き起こすメカニズム

    聴覚過敏は、音を電気信号に変える耳の器官、特に内耳の機能異常によって引き起こされることがあります。

    内耳にある蝸牛(かぎゅう)という器官には、音の振動を感知する有毛細胞があり、これが何らかの原因でダメージを受けると難聴につながります。

     

    内耳性の難聴では、特定の音が聞こえにくくなる一方で聞こえる範囲の音に対して脳が過剰に感度を上げてしまい、結果として音が大きく響くように感じられる「リクルートメント現象」という状態が起こることがあります。

    これは小さな音の入力に対して、脳の聴覚中枢が過剰に反応してしまうために起こる現象です。突発性難聴やメニエール病、加齢による難聴などがこうした聴覚過敏を伴うことがあります。

     

    また、中耳にあるアブミ骨筋(あぶみこつきん)という筋肉の機能障害も一因と考えられています。

    これは大きな音が耳に入ってきた際に収縮し、内耳に伝わる音のエネルギーを和らげる役割を担っています。

    しかしこの筋肉が動きにくくなると音量の調節がうまくできなくなり、あらゆる音がダイレクトに内耳に伝わってしまい、聴覚過敏を引き起こすことがあります。

     

    脳の音処理システムの問題

    耳から送られてきた音の信号は、最終的に脳の聴覚野という部分で処理され、「何の音か」「どこから聞こえるか」などが認識されます。聴覚過敏はこの脳の音処理システムに問題が生じることでも発症します。

     

    私たちの脳には、さまざまな音から重要な音だけを抽出するフィルター機能が備わっています。

    しかし脳の機能に何らかの変調が起きるとこのフィルターがうまく働かなくなり、すべての音が重要情報として入り込んだ結果、脳が処理しきれずにパニック状態に陥ります。

    これが聴覚過敏の人が感じる混乱の正体と考えられています。

     

    特に不安や恐怖といった感情を司る扁桃体(へんとうたい)や、自律神経系の中枢である視床下部などが過剰に活動することも関係しているとされます。

     

    不快な音によってこれらの部位が刺激されると、音に対する反応が強まり、さらに音に敏感になるという悪循環が生まれます。

    ストレスや疲労、うつ病、不安障害、発達障害などがあると、脳の機能がアンバランスになりやすく、聴覚過敏の症状が現れやすいと考えられます。

  • どんな人がなりやすい?

    聴覚過敏は誰にでも起こりうる症状ですが、発症しやすい傾向も知られています。

    ここではどのような人が聴覚過敏になりやすいかを紹介します。

     

    発達障害(ADHD・ASD)の方

    発達障害、特に自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)のある人は、感覚過敏の特性を伴うことが多く、そのひとつとして聴覚過敏が現れることがあります。

    必要な情報と不要な情報を取捨選択する脳のフィルター機能がうまく働かず、さまざまな音が等しく重要な情報として入力されてしまうため、音による刺激を過剰に受け取ってしまいます。

    また、特定の音に対して強い反応を示してしまうパターンもあります。

     

    うつ病の方

    うつ病や不安障害などの精神的な不調を抱えている方も、聴覚過敏を併発しやすい傾向があります。

    これは精神的なストレスが脳の機能に影響を与えるためです。

    特に不安や気分の落ち込みに関わる神経伝達物質「セロトニン」の働きが低下すると、外部からの刺激に対して脳が過敏に反応しやすくなります。

    普段なら気にならない生活音がひどく苦痛に感じられるようになり、症状がさらなるストレスを生んで、背景となった不調を悪化させるという悪循環に陥ることもあります。

     

    片頭痛の出やすい方

    片頭痛のある方が、発作時やその前触れとして聴覚過敏を経験することは珍しくありません。

    このとき起こる症状は、片頭痛のメカニズムそのものに原因があります。片頭痛は脳の感覚神経(三叉神経など)がなんらかの刺激に過剰に反応することが一因とされています。

    この神経の過剰な反応が聴覚の経路にまで広がり、聞こえる音のボリュームを異常に上げてしまいます。その結果ズキズキとした頭痛のつらさに加え、普段なら気にならない生活音さえも苦痛として感じるようになります。

     

    メニエール病の方

    めまい、難聴、耳鳴りを主な症状とするメニエール病も、聴覚過敏を伴うことがあります。

    特にぐるぐると目が回るようなめまいの発作時に、周囲の音が異常に響いて聞こえる症状が現れやすいのが特長です。

    この聴覚過敏はメニエール病によって内耳のリンパ液が増えすぎ、内部の圧力が高まることで引き起こされます。この圧力の変化が、音を感じる細胞の働きを不安定にし、正常な音量調節をできなくさせてしまうのです。その結果、音が過剰に響いて聞こえるようになります。

     

    線維筋痛症(せんいきんつうしょう)の方

    全身に激しい痛みが広がる線維筋痛症の方も、高い割合で聴覚過敏を併発することが報告されています。

    線維筋痛症は脳が痛みをコントロールする機能に異常が生じることで起こると考えられており、「中枢性感作」という状態にあります。

    これは脳がさまざまな刺激に対して過敏になっている状態であり、痛みだけでなく音や光、匂いといった外部からの刺激全般に対しても過敏に反応しやすくなるため、聴覚過敏が起こりやすいとされています。

  • 聴覚過敏を診断する流れ

    聴覚過敏の症状を感じたら、まずは専門の医療機関を受診することが大切です。

    診断は主に問診と聴力に関する検査を組み合わせておこなわれ、症状の原因を探っていきます。

     

    詳しい聞き取り(問診)

    まずは問診で、どのような音がつらいか、症状はいつからか、生活への影響などを詳しく聞き取ります。

    耳の病気、片頭痛、うつ病などの既往歴やこれまでの発達特性も、原因を特定し治療方針を立てるうえで重要な手がかりとなります。

     

    原因となる病気の診察・検査

    耳のなかを直接観察し、聴覚過敏の原因となる病気がないか調べます。

    耳鏡や耳用顕微鏡を使い、中耳炎や鼓膜の異常といった明らかな問題がないかを確認します。

    メニエール病などが疑われる場合は、追加の検査をすることもあります。

     

    難聴の有無を調べる聴力検査

    一般的な聴力検査(防音室で「ピー」といった音を聞き取るもの)で、難聴による聞こえにくさが隠れていないかを確認します。

    難聴によって脳が音に過剰に反応し、聴覚過敏を引き起こすことがあるため、その有無を調べます。

     

    耳の防御機能の検査(音響反射検査)

    大きな音から耳を自動で守る中耳の筋肉(アブミ骨筋)の動作を調べる検査です。

    たとえば顔面神経麻痺などでこの機能が弱まっている場合、音の衝撃を和らげる機能が低下していることを意味し、これが直接的な原因と推測されます。

     

    不快に感じる音量の測定(UCL検査)

    不快閾値(UCL)検査は、どの音量から不快に感じるかを直接測定します。音がうるさいと感じた時点で合図を送ってもらい、その音量を記録します。これが通常より大幅に低い場合は客観的判定で聴覚過敏とされ、その重症度を判断する材料になります。

     

    心理的状態のカウンセリング

    症状による不安や恐怖感、日常生活への支障など、精神的な負担の度合いを評価します。

    聴覚過敏はストレスなど心理状態とも深く関わるため、カウンセリングや質問シートを用いて心理状態を把握し、認知行動療法などの治療法が有効かを判断する参考にします。

  • セルフチェックの方法

    聴覚過敏が疑われる場合、セルフチェックで自身の状態を確認してみましょう。

    これは医学的な診断ではないため、あくまで参考としてご活用ください。

     

    聴覚過敏セルフ診断チェックリスト

    以下の項目に、最近のあなたに当てはまるものがいくつあるか数えてみましょう。

     

    食器がぶつかる音や金属音が突き刺さるように痛い

    周囲の音を気にしないようにしても、つらさを感じてしまう

    掃除機や充電バッテリーなど、家電製品のモーター音が気になる

    スーパーやショッピングモールなどの人混みに行くと、ざわめきで疲れてしまう

    静かな場所でも、時計の秒針の音などが気になって集中できない

    会話中に周りの雑音が気になってしまい、話の内容が頭に入ってこない

    ドアを閉める音や突然の大きな音に予想外に驚いてしまう

    音が原因でイライラしたり、頭痛・めまいが起こったりする

    以前は気にならなかった生活音や人の声が、最近急にうるさく感じるようになった

    音がうるさい場所を無意識に避けるようになった気がする

    大きな音のする場所に行くと思うと、不安になったり落ち込んだりする

    耳栓やイヤーマフなどの防音アイテムがないと安心して外出できない

     

    診断結果

    上記のチェックリストに当てはまる項目があったでしょうか。

    3個以上当てはまった方は、聴覚過敏の傾向があるかもしれません。特に日常生活に支障を感じている場合は、耳鼻咽喉科などの専門医に相談してみることをおすすめします。

    5個以上当てはまった方は、聴覚過敏である可能性が考えられます。音による疲労がすでに心身の負担となっている可能性があります。我慢せずに、できるだけ早く専門医の診察を受け、適切な対策を始めることが大切です。

  • 専門的な治療法

    聴覚過敏の治療法は、その原因や症状の程度に応じてさまざまなアプローチが取られます。

    原因となっている病気(中耳炎やメニエール病など)があれば、まずはその治療が優先されます。

     

    それ以外に具体的な原因が特定できない場合や、原因疾患の治療後も症状が残る場合には、音に慣れるための訓練や心理的なアプローチが中心となります。

    治療はひとつの方法に固執せず、複数を組み合わせて、その人に合った方法を見つけていくことが大切です。

     

    どの診療科を受診すべき? 専門医の選び方

    聴覚過敏の症状で最初に相談すべき診療科は耳鼻咽喉科です。

    耳鼻咽喉科では、問診や聴力検査を通じて耳や聴覚経路に異常がないかを調べ、聴覚過敏の原因となる病気の診断をおこないます。

    耳の検査で特に異常が見つからず、ストレスや精神的な要因が強いと判断された場合は、心療内科や精神科への受診をすすめられることもあります。

    これらの科ではカウンセリングや認知行動療法、必要に応じて不安を和らげる薬の処方など、心理的な側面からアプローチします。また片頭痛やてんかんなど脳の神経系の病気が背景にある場合は、神経内科が専門となります。

     

    専門医を選ぶ際は、聴覚過敏や耳鳴りの治療に詳しい医師を探すといいでしょう。病院のウェブサイトなどで医師の専門分野や治療実績を確認するのもひとつです。

    初診時には、いつからどのような症状で困っているか、セルフチェックの結果、試した対策などをメモにまとめて持参するとスムーズに状況を伝えることができます。

     

    音響療法で感覚を鈍らせる方法

    音響療法とは聴覚過敏の代表的な治療法のひとつで、安全で心地よいと感じる程度の音をあえて聞くことで脳を音に慣れさせていく訓練です。特に「TRT(Tinnitus Retraining Therapy=耳鳴り順応療法)」が有名です。

     

    TRTはもともと耳鳴りの治療法ですが、聴覚過敏にも効果があるとされています。具体的には、補聴器に似た装置から、常に「サー」というような穏やかな雑音(ホワイトノイズなど)を流し続けるというものです。

    この音によって、脳がふだん意識しなくてもよい音を認識するようになり、日常生活のさまざまな音に対する過剰な反応を抑制していくことを目指します。

    治療期間は数ヵ月から2年程度と長期にわたることが多いものの、成功率は比較的高いとされています。

     

    自宅でできる簡易的な音響療法としては、川のせせらぎや鳥の声といった自然環境音や、ヒーリングミュージックなどを、自分が快適だと感じる小さな音量で長時間流しておく方法があります。

     

    認知行動療法で不安や恐怖を軽減する方法

    認知行動療法(CBT)は心理的なアプローチによる治療法です。

    聴覚過敏では、特定の音に対して「危険だ」「耐えられない」といった受け取り方(認知)が、不安や恐怖といった問題につながっていると考えます。

     

    認知行動療法では、まずカウンセリングを通じて自分がどのような音に対してどのように感じ、考え、行動しているかのパターンを客観的に把握します。

    そのうえで音に対する強い拒絶感を、より柔軟な受け取り方に変えていく練習をします。たとえば「この音が聞こえたらパニックになる」という考えを「この音は不快だが、少しの間ならやり過ごせる」といった形に修正していくのです。

     

    また不快な音を過度に避けるのではなく、少しずつ短い時間だけその音を聞いて、不安が自然に和らぐ体験を繰り返す曝露療法(ばくろりょうほう)を組み合わせることもあります。

     

    こうしたトレーニングを通じて、音への過剰な恐怖心や不安を軽減し、音に対する心の耐性をつけていくことを目指します。

  • 聴覚過敏の仕事への影響と対処法

    聴覚過敏の仕事への影響と対処法

    多くの人が働くオフィス環境において、聴覚過敏は集中力の低下やコミュニケーションの困難を招き、仕事のパフォーマンスに大きな影響を与えることがあります。

    しかし症状について正しく理解し、その人に合った対処法を見つけることで、その負担を軽減することは可能です。

    汎用的な職場の環境調整を相談することから、個人で実践できる手軽な工夫、便利なアイテムの活用までそのアプローチはさまざまです。

    ここでは聴覚過敏と業務の両立を目指すための具体的な方法を解説します。

     

    オフィス環境で困難を感じる場面とは?

    聴覚過敏の人がオフィスで困難を感じる場面はさまざまです。

    特に壁や仕切りのないオープンなオフィスでは、電話の着信音、コピー機の作動音、キーボードを叩く音、周囲の人の話し声や足音など複数の音が絶えず耳に入ってくるため、集中を維持するのが困難になります。

     

    ウェブ会議や対面でのミーティングも難しい場面のひとつです。

    複数の人の声やマイクのハウリングの音が響いて頭痛が起きることがあります。

     

    また休憩時間も雑談している声や食事の咀嚼音などが気になり、休憩室でリラックスできないという悩みも聞かれます。

    一般的に静かな環境であっても、空調の音や時計の針の音などが気になってしまい仕事に手がつかなくなることもあります。

     

    仕事中にすぐ実践できる対処テクニック

    聴覚過敏の症状が仕事中につらいと感じたときに、すぐに実践できる対処法を知っておくと不安を軽減できます。

     

    具体的な方法として、まずはゆっくりと深く呼吸をする腹式呼吸を試してみましょう。鼻からゆっくり息を吸ってお腹を膨らませ、口から時間をかけて息を吐き出します。これを数回繰り返すことで、高ぶった交感神経の働きが静まり心身のリラックスにつながります。

     

    どうしてもつらいと感じるときは、一時的に静かな場所に移動することも大切です。会議室の個室やトイレ、人がいない休憩スペースなどに短時間でも避難して、耳と頭を休ませましょう。

     

    音をブロックするアイテムの活用法

    職場で音の刺激を和らげるためには、音を遮断するアイテムの活用が有効です。

    代表的なものに、ノイズキャンセリング機能付きのイヤホンやヘッドホンがあります。

    これは、周囲の雑音と逆の位相の音を出すことで騒音を打ち消す仕組みです。特にエアコンの作動音など、持続的な音に対して高い効果を発揮します。

     

    より強力に音を遮断したい場合は、イヤーマフが適しています。

    これは工事現場などで使われるヘッドホン型の防音保護具で、物理的に耳を覆うことで音を遮断します。

    防音アイテムを使用する際は、周囲の理解を得ることが大切です。事前に職場の人に聴覚過敏について説明し「集中するために使います」「ご用の際は肩を叩いてください」などと具体的な運用を伝えておくと、誤解を避けてスムーズに業務を進めることができます。

  • 家族や周囲の方にサポートしてもらう方法

    聴覚過敏のつらさは外見からは分かりにくいため、家族や職場の方など周囲の人の理解とサポートが不可欠です。

    ここでは周囲の人ができる具体的な対応を紹介します。

     

    症状への理解と共感

    まず基本となるのが、症状への正しい理解にもとづいた心理的サポートです。

    聴覚過敏を本人の意思では制御できない状態と認識し、「気のせい」「考えすぎ」などと安易に否定せず、本人の訴えをありのままに聞こうとする姿勢が求められます。なぜその音が苦痛なのか、どのような支障が出ているのかを傾聴し、そのつらさに共感を示すことが精神的な孤立を防ぎます。

    こうした安心感が、症状の安定にもつながると考えられています。

     

    生活音への配慮

    次に、音の刺激そのものを減らす物理的な配慮が有効なサポートとなります。

    家庭内では、テレビや音楽のボリュームを少し小さくする、ドアや食器の音を立てないようにそっと扱う、といった日々の小さな工夫が重要です。

    また掃除機やミキサーなど大きな音を出す機器を使用する際は、事前に一声かけることで不意の音による混乱を避けられます。

    本人にとって自宅が心から安心できる場所であることが、心身を休ませるうえで不可欠です。

     

    外出時のサポート

    社会参加における負担を軽減するために、行動のサポートも重要です。

    たとえば外出の際は人混みの多い場所や時間帯を避けて計画を立てたり、本人の状態に応じて休憩や予定の切り上げができるよう柔軟に対応したりすることが求められます。

    また当事者が耳栓やイヤーマフなどの防音具を使用していることに対し、周囲がそれを特別なことと見なさない姿勢も大切です。

    必要な自己防衛策として受け入れることが、本人の安心感にもつながります。

     

    長期的なセルフケア方法

    聴覚過敏はすぐに完治するとは限らず、症状と長期的に付き合っていく必要がある場合も少なくありません。そのため基本方針としては「症状を根絶する」ことばかりを目指すのではなく、「症状による不快感を上手にマネジメントし、穏やかな時間を増やす」というセルフケアの視点が重要になります。

    このセルフケアは耳だけの問題として捉えるのではなく、身体的・精神的な健康を維持するための総合的なアプローチが鍵となります。

    聴覚過敏は心身の状態とも深く連動しているため、生活習慣全体で過敏になっている心と体をいたわることが求められます。自律神経を整え心身の土台を安定させることが、結果的に音への耐性を高めることにつながるのです。

     

    日常生活で実践できるストレス管理法

    聴覚過敏のセルフケアにおいて、特に重要なのがストレスの管理です。
    ストレスは自律神経のバランスを乱して脳を過敏な状態にし、音への耐性を低下させてしまいます。
    逆にいえば、日々の生活で感じるストレスを意識的に緩和していくことが症状の安定につながるのです。

    具体的な方法としては、まずマインドフルネスや腹式呼吸があります。
    これらは音の刺激で高ぶった神経を鎮め、過剰に反応しがちな心を安定した状態に引き戻すうえで非常に有効です。

    またウォーキングやヨガといった軽い運動も、ストレスを緩和して心身のリラックスを促すだけでなく、ストレスそのものに強い身体をつくる助けになります。
    もちろんこうした取り組みを支える土台として、十分な睡眠や栄養バランスの取れた食事は、ストレスに負けない心身をつくるうえで不可欠といえるでしょう。

    このようにさまざまな角度からストレスを緩和するアプローチが、聴覚過敏と穏やかに付き合っていくための基本となります。

     

    症状悪化時の緊急対応策

    日常生活で気をつけていても、急に症状が悪化してしまうことはあります。
    そんなときのために、緊急の回避策を知っておくと安心です。

    対応としてまずおこなうべきは、不快な音のする場所から速やかに離れ、静かで安心できる場所に避難することです。
    自宅の静かな部屋、外出先であればトイレの個室、公園のベンチなど、自分にとっての安全地帯をあらかじめいくつか見つけておくとよいでしょう。

    避難した場所で、前述した腹式呼吸など自分なりのリラックス法をして高ぶった神経を鎮めます。冷たい水を飲んだり首筋を冷やしたりすることも、気分を落ち着かせるのに役立ちます。

    どうしても症状が収まらない場合は、無理をせず早めに帰宅して休息を取るという決断も必要です。

  • まとめ

    聴覚過敏のつらさは外見からは分かりにくく、本人だけでなく家族や職場といった周囲の方も対応に迷うことがあるかもしれません。しかしこの記事で解説したように、その原因や対処法について正しい知識を持つことが改善への第一歩となります。

    音に関する困りごとを抱えているなら自分だけで抱え込まず、まずは適切な医療機関に相談しましょう。そのうえで、日常生活や職場において自身に合った対処のポイントをおさえることで、困難を緩和していくことができます。

    聴覚過敏は長期間にわたる場合もありますが、周囲のサポートも得ながら生活上の工夫を粘り強く続けることで、症状とうまく付き合い穏やかで快適な日々を送ることは十分に可能なのです。

     

     

    ※コラム中の画像は全てイメージです

執筆:コラム編集部
執筆:コラム編集部
医療・福祉分野で主に障害のある方の支援を10年以上従事。これまでの経験とノウハウを活かし、さまざまな事情から不調になり休職したり、働けなくなったりした方向けに、復職や就職などの“働く”をテーマに少しでも役立つ情報を執筆。
監修:森 しほ 先生
監修:森 しほ 先生
ゆうメンタル・スキンクリニック理事。
ゆうメンタルクリニック・ゆうスキンクリニックにて勤務。産業医として一般企業のケアもおこなっている。

・ゆうメンタルクリニック(上野/池袋/新宿/渋谷/秋葉原/品川/横浜/大宮/大阪/千葉/神戸三宮/京都/名古屋):https://yuik.net/
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