ただし、困りごとの現れ方や程度には個人差があり、ADHDの方すべてに同じ傾向がみられるわけではありません。特性だけを見るのではなく、本人と環境の組み合わせを考えることが大切です。
仕事で感じやすい困りごとの代表例として、ここでは次の三つを紹介します。
それぞれ詳しくみていきましょう。
ADHDの特性がある方のなかには、周囲の音や人の動きなどに注意が向きやすく、目の前の作業に集中し続けることへ負担を感じる方がいます。
たとえば、電話の音や周囲の会話が気になり、作業が途中で止まる場合があります。人によっては、細かな確認が必要な仕事で、入力内容やメールの確認が抜けてしまうこともあるでしょう。
一方で、可能であれば静かな場所へ移動する、机の上を整理するなど、環境を調整することで取り組みやすくなる場合もあります。
集中しにくさを本人の努力だけで補おうとせず、自分が作業しやすい条件を把握することが大切です
複数の仕事が重なったときに、何から始めるべきか迷いやすい方もいます。
たとえば、「今日中に資料を作る」「メールを返信する」「翌日の準備をする」といった仕事を同時に抱えると、優先順位を決めるだけでも負担になる場合があります。
締切まで時間がある仕事を後回しにしてしまい、直前になって作業が集中してしまう方もいます。
このような場合は、仕事を細かく分けて一覧にし、期限と優先順位を見える形にすると整理しやすくなります。自分の記憶や感覚だけに頼らず、予定表やタスク管理ツールを活用することも一つの方法です。
一度に複数の内容を口頭で伝えられると、情報を整理することに負担を感じる方もいます。
たとえば、「資料を修正してから担当者に確認し、終わったら報告してください」といった複数の指示を一度に受けると、一部の内容が抜けてしまう場合があります。
また、指示自体が曖昧な場合は、ADHD特性の有無に関わらず、認識のずれが生じやすいといえます。情報整理に負担を感じる方はさらに確認が必要になるでしょう。
対策として、わからない点があればその場で確認し、「〇日までに〇〇に対応するという認識で合っていますか」のように、自分の理解を伝えて認識をすり合わせる方法があります。
あわせて、重要な内容をメールやチャットなど文章で共有してもらうと、あとから確認しやすくなります。
同じADHDでも、興味の対象や得意な作業、集中しやすい環境は一人ひとり異なります。そのため、職種名だけで判断せず、自分が取り組みやすい作業や働きやすい環境を確認することが大切です。
仕事の特徴と職種例を、以下の表にまとめました。
| 仕事の特徴 | 職種例 | 活かしやすい点 |
| 発想力を活かすクリエイティブな仕事 | デザイナー、ライター、企画職など | 自由な発想やアイデアを形にしやすい |
| 行動力を活かすアクティブな仕事 | 営業職、販売職、インストラクターなど | 人と関わりながら動き、行動力を活かしやすい |
| 探求心を活かす専門的な仕事 | 研究者、プログラマー、分析家など | 興味のあるテーマを深く掘り下げやすい |
| 人との対話や変化を楽しめる仕事 | 接客業、コンサルタント、イベント関連職など | 人との対話や状況の変化を活かしやすい |
ただし、上記の仕事がADHDの方すべてに向いているわけではありません。
たとえば営業職でも、顧客との会話を楽しめる方がいる一方、複数の予定や書類を同時に管理することへ負担を感じる場合があります。また、興味のあることへ集中しやすい方もいますが、集中の仕方や得意な作業には個人差があります。
そのため、「どの職種が向いているか」だけで考えるのではなく、「どのような作業なら取り組みやすいか」「どのような環境なら集中しやすいか」という視点で仕事を検討しましょう。
同じ職種でも、指示の出し方や仕事の進め方によって働きやすさは変わります。
とくに確認したいポイントは、次の五つです。
求人情報だけではわからない部分もあるため、面接や職場見学などで確認してみましょう。
複数の仕事を同時に進めることへ負担を感じる場合は、一度に担当する業務量を確認しましょう。
たとえば、複数の案件を進めながら電話対応や来客対応も求められる環境では、作業を切り替える回数が増えます。一方で、一つずつ仕事を進められる環境なら、落ち着いて取り組みやすい方もいるでしょう。
面接では、「一人が同時に担当する仕事はどの程度ありますか」「急な依頼はどの程度ありますか」など、具体的に確認してください。
指示を整理することに負担を感じる方は、仕事の手順や役割が明確な職場か確認しましょう。
口頭だけで指示が出る職場より、マニュアルやメール、チャットなどで内容を確認できる環境の方が働きやすい場合があります。厚生労働省でも、ADHDの特性がある方への配慮として、短く明確な伝え方や、わかりやすいルールの提示を挙げています。
入社後に困らないためにも、マニュアルの有無や指示の伝え方を確認しておくことが大切です。
周囲の刺激で注意がそれやすい場合は、集中しやすい環境について相談できるか確認しましょう。
たとえば、人の出入りが少ない席に変更することで、作業へ集中しやすくなる場合があります。業務や職場のルールによっては、イヤホンや耳栓などの使用を相談できることもあるでしょう。
障害のある方への合理的配慮は、一律の内容が決められているわけではありません。本人が感じている困りごとと事業主の状況を踏まえ、話し合いながら検討することが基本です。
仕事で迷ったときに相談しやすい環境かどうかも重要です。
優先順位に迷ったまま仕事を進めると、締切や求められている内容とのずれが生じる場合があります。上司や担当者と定期的に進捗を確認できれば、問題が大きくなる前に相談しやすくなるでしょう。
面接では、仕事を教える担当者がいるか、進捗確認をどのようにおこなっているかを聞く方法があります。自分から相談することに負担を感じやすい方は、相談の機会が仕組みとして設けられているか確認してみてください。
職種名だけではなく、実際に担当する作業まで確認しましょう。
たとえば、同じ事務職でも、データ入力、資料作成、電話対応、社内調整など仕事内容はさまざまです。同じ営業職でも、新規顧客への提案と、見積書や顧客情報の管理では求められる力が異なります。
これまでの経験を振り返り、「取り組みやすかった仕事」「負担を感じた仕事」を具体的に整理してみてください。得意な作業を活かしやすい仕事内容を選ぶことが、無理なく働き続けるための一つのポイントになります。
自分の得意不得意や、働きやすい環境を一人で整理することが難しい場合は、支援機関へ相談する方法もあります。
リワークセンターでは、一人ひとりの状況に合わせて、仕事で感じている困りごとや得意なことを整理し、復職・就職に向けた準備をサポートしています。自分に合う働き方を考えたい方は、無料相談や資料もご活用ください。
仕事探しでは、次の四つを意識しましょう。
一人で判断することが難しい場合は、支援機関を活用しながら整理する方法もあります。
仕事を探す前に、自分の得意不得意を具体的な作業単位で整理しましょう。
「事務が苦手」「営業が得意」と大きく分けるだけでは、自分に合う仕事を判断しにくいためです。たとえば、「長時間のデータ確認は負担を感じる」「人と話しながら提案を考える仕事は取り組みやすい」のように整理します。
過去の仕事や学校生活で、次のような経験を振り返ってみましょう。
具体的に整理することで、自分が働きやすい条件をみつけやすくなります。
求人を見る際は、職種名だけでなく、実際の仕事内容まで確認しましょう。
同じ職種でも、会社によって担当業務や働き方は異なります。求人票を見るときは、業務内容が具体的に書かれているか、勤務時間や働き方に柔軟性があるかを確認するとよいです。
求人票だけでは判断できない場合は、面接や職場見学で確認しましょう。面接の場では、仕事の進め方やサポート体制について質問することも大切です。
たとえば、次の内容を質問できます。
自分が働いている場面を具体的に想像しながら確認すると、入社後のミスマッチを減らしやすくなります。
仕事を探す際は、一般雇用と障害者雇用の違いも確認しておきましょう。
一般雇用は、障害の有無を問わず応募できる一般的な採用枠です。一方、障害者雇用は、障害のある方を対象とした採用枠で、障害の特性や必要な配慮について職場と共有しながら働くことを前提としています。
働くうえで必要な配慮は、障害の特性や状況に応じて検討されます。「障害者雇用促進法」では、対象となる障害のある方に対して、過重な負担にならない範囲で合理的配慮を提供することが事業主に求められています。
また、復職を目指すか、新たな就職先を探すかによっても、必要な支援は異なります。リワークセンターでは、復職・就職の両方に対応しており、自立訓練(生活訓練)や就労移行支援など、複数のサービスを運営しているため、方針が変わっても同じ窓口で相談を続けられます。
障害者手帳がない方でも利用できる相談窓口があるため、支援機関へ確認しながら、自分に合う働き方を検討しましょう。
自分だけで仕事の向き不向きを整理することが難しい場合は、就労や復職を支援する機関へ相談する方法があります。
主な相談先と支援内容は、以下のとおりです。
| 支援機関・サービス | 主な対象 | 主な支援内容 |
| 発達障害者支援センター | 発達障害のある方や家族 | 日常生活や仕事に関する相談に対応し、ハローワークや地域障害者職業センターなどの関係機関とも連携する |
| 地域障害者職業センター | 障害のある方で就職や職場定着を目指す方 | 職業評価、職業準備支援、職場適応支援などをおこなう |
| 就労移行支援 | 一般企業への就職を目指す障害のある方 | 就労に必要な知識や能力を身に付けるための訓練や就職活動の支援をおこなう |
| 復職支援機関 | 現在休職しており、職場復帰を目指す方 | 生活リズムの調整や復職準備、職場復帰に向けた支援をおこなう |
支援内容や利用条件は、機関によって異なります。
たとえば、復職支援機関であるリワークセンターは、支援スタッフの70%以上が資格保有者です。精神保健福祉士や公認心理師、臨床心理士、キャリアコンサルタントなどの資格をもつスタッフが在籍しています。
また、スタッフの39%は医療福祉以外の業種経験を持っています。自分の特性や仕事で困りやすい場面の整理だけでなく、実際の職場を想定した仕事の進め方についても相談できます。
「自分に合う仕事がわからない」「復職後の働き方に不安がある」と感じている場合は、自分に合う相談先を確認してみましょう。
仕事で取り入れやすい対策は、次の四つです。
すべてを一度に変える必要はありません。自分が困っている場面に合わせて、取り入れやすい方法から試してみましょう。
大きな仕事に取りかかりにくい場合は、作業を小さく分ける方法があります。
たとえば「資料を作成する」という仕事であれば、次のように分けられます。
作業を細かく分ければ、最初に何をすればよいか判断しやすくなります。
複数の仕事が重なって自分だけでは優先順位を決めにくい場合は、上司や担当者へ確認することも一つの方法です。「どれから取り組むべきか」を明確にすることで、目の前の仕事へ集中しやすくなります。
予定や締切を忘れやすい場合は、一カ所にまとめて管理しましょう。
たとえば、タスク管理ツールを使い、やるべきことを見える形で整理することで、頭のなかだけで覚えようとする負担を減らせます。カレンダー、手帳、タスク管理ツールなど、自分が確認しやすい方法を選ぶことが大切です。
また、最終期限だけではなく、中間期限を決めておく方法もあります。たとえば、金曜日が提出期限であれば、「火曜日までに情報収集」「水曜日までに下書き」「木曜日に確認」のように分けます。
作業の進み具合を途中で確認できるため、締切直前に仕事が集中することを防ぎやすくなるでしょう。
集中すると時間を確認することを忘れやすい場合は、アラームやタイマーを利用する方法もあります。自分に合う方法を試しながら、無理なく続けられる仕組みを整えてみてください。
聞いた内容を忘れやすい場合は、指示や確認項目を文章で残すことを習慣にしましょう。
仕事中にできる対策として、次の方法があります。
たとえば指示を受けた際は、「○日までに○○を作成するという認識で合っていますか」と確認します。期限や作業内容を言葉にすることで、認識のずれを防ぎやすくなります。
メモは紙やデジタルなど、自分が使いやすい方法を選びましょう。あとから見返せるよう、記録する場所を統一しておくこともポイントです。
また、繰り返しミスが起こる作業ではチェックリストが役立ちます。メール送信前なら、「宛先」「添付ファイル」「日時」「本文」など、確認する項目を決めておきます。
指示や確認事項を文章で残す仕組みを作ることで、注意力だけに頼らず作業を進めやすくなります。
自分だけの工夫では対応しにくい場合は、困っている状況を整理して職場へ相談することも検討しましょう。
「仕事ができません」と伝えるのではなく、具体的な状況と必要な工夫をセットで整理すると相談しやすくなります。
たとえば、次のように考えられます。
合理的配慮の内容は、本人の希望だけで一律に決まるものではありません。本人と事業主が話し合い、それぞれの状況を踏まえて検討することが基本です。自分が困っている場面を具体的に整理することで、職場とも相談しやすくなるでしょう。
指示の受け方や業務量、集中しやすい環境などを確認すると、自分に合う仕事や職場を探しやすくなるでしょう。
現在休職している方や、復職後の働き方に不安がある方は、リワークを活用する方法もおすすめです。一般的にリワークでは、生活リズムを整えながら、仕事への取り組み方や職場での困りごとを整理し、復職に向けた準備を進められます。
たとえばリワークセンターでは、利用者に多い9つの症状と割合を公開しています。ただし、公開されている症状だけがサポート対象ではありません。
精神疾患(精神障害を含む)、発達障害、身体障害、知的障害、特定難病など、すべての障害が対象です。幅広い障害に対応しているため、自分が利用できるか不安な方も相談しやすいでしょう。
仕事や復職について悩んでいる場合は、お気軽にご相談ください。