発達障害と一言で言っても、さまざまな障害があり、各障害により特徴は異なります。しかし、共通して言えるのは「脳の機能の発達に生まれつき偏りがあるために、生きづらさを感じたり、日常生活に困難をきたしている状態」であるということです。この生きづらさにはさまざまなものがあります。
人は多かれ少なかれ、上記のような特徴を持っています。例えば、全くミスをせず、忘れ物を一度もしたことがない、という人などいないでしょう。発達障害の考え方では、このような特徴をどの程度色濃く持っているかがポイントになります。発達障害のひとつ自閉症スペクトラム障害(ASD)のスペクトラムという言葉がその意味をよく表しています。
上記のような特徴が極めて濃い人から、ほとんど目立たない薄い人までをグラデーションの帯のように考えます。この濃淡のある帯が連続体という意味のスペクトラムになります。人は必ずこのスペクトラムのどこかに位置します。つまり、発達障害の傾向が濃いか薄いかの違いなのです。誰もが多かれ少なかれ発達障害の特徴を持っていると考えてもよいでしょう。
上記のチェックポイントに、あなたも心当たりはありませんか。心当たりがあるからと言って、発達障害というわけではありません。チェックポイントのような特徴により日常生活に支障をきたしたり、トラブルにより精神的な苦痛を感じていないか、それが問題なのです。
私たちの誰もが発達障害の傾向を多かれ少なかれ持っているのは間違いありません。では、どのような場合発達障害と考えられるか、見極めのポイントはどこにあるのでしょう。正確には医師の診断が必要になります。臨床心理士などが発達検査をおこない、脳の機能のバランスをチェックします。同時に、本人の生きづらさや、特徴があることによってどの程度日常生活に支障をきたしているかも重要な目安になります。
例を挙げて見てみましょう。営業職として勤務しているAさんは明るい人柄で、いつもエネルギッシュに活動しています。ところが、職場で次の行動が見られるのが特徴的でした。
このようなAさんの行動に対して上司から叱責されることが増え、同僚との関係も徐々に疎遠になっていきました。Aさん自身は意識していませんが、イライラしたらものにぶつけてしまうクセがあります。周囲の人たちはAさんにどう接してよいのかわからない、と遠巻きに眺めるしかありません。
この場合、大抵の人は、叱責する上司や、Aさんにどう接していいかわからない周囲の気持ちに共感するかもしれません。しかし、Aさん自身にはなぜ自分が責められるのかわからないのです。むしろ、周囲が自分の悪口ばかり言うと思うかもしれません。Aさんの行動は生まれついての脳の機能によるものであり、意図してふるまっているわけではないからです。
Aさんの立場になって考えてみると、自分のすることを常に否定されるのは辛いものです。こうして、発達障害(傾向)を持つ人はさまざまなトラブルのためにストレスを溜めてしまうことになります。Aさんの行動が変わらない限り周囲との対人トラブルは解決しないでしょうし、その間Aさんはストレスを溜め続けることになります。結果、うつ病を発症することだってありえます。
Aさんの場合はわかりやすい発達障害の特徴ですが、軽微な発達障害の特徴で、職場のトラブルを抱える人は少なくありません。このような人はうつの症状が前面に出ており、医師も発達障害とすぐには診断できないことがあります。また、軽微な発達障害の人はグレーゾーンと考えられ、発達障害であるとも発達障害でないともいうことができます。
このように、発達障害の特徴が原因で、うつ病を発症するケースは思いのほか多いです。うつ病の治療を考えるとき、発達障害が隠れていないか考えてみることも、ときにとても重要になります。
発達障害と合併しているうつ病にせよ、うつ病の症状が疑われる場合は、まず速やかに専門医を受診することをおすすめします。精神科・心療内科がこれにあたります。最初はハードルが高いと感じられるようでしたら、かかりつけ医に相談してみるのもよいでしょう。ほかには、社内外に産業医と呼ばれる医師が配置されているはずです。人事労務担当者などに相談し、繋いでもらうのも手段のひとつです。
うつ病と診断されたら、主治医の指示に従い、精神療法や薬物療法を受けながら症状の回復を待ちます。働きながら治療を受けることも可能ですが、症状の程度によっては、必要に応じて休職という選択肢も有効です。うつ病の回復に必要なのは十分な休息と療養です。仕事のことはいったん忘れ、心身ともにゆっくりと休みましょう。
うつ病は気分の浮き沈みを繰り返しながら回復に向かう病気です。気分がよい日もあれば、どん底まで落ち込むこともあります。症状に一喜一憂することなく、辛抱強く治療に専念することが大切です。そして、うつ病と同時に発達障害(傾向)の診断が出た場合は、うつ病の回復を見て、発達障害のトレーニングにあたるのもよいでしょう。
発達障害に合わせたトレーニングを提供している施設もあります。リワーク機関の一部でも、発達障害向けのプログラムを用意しているところがあります。具体的には、作業でケアレスミスが続くことが困りごとの発達障害(傾向)の場合には、どのような作業環境であればミスを減らせるかなど分析をし、環境を変えて作業を繰り返すことで、困りごとを改善していくトレーニングなどがあります。
もし、うつ気分が回復し、職場復帰までに発達障害の生きづらさとの付き合い方を学びたいと考えれば、このようなトレーニングを受けることで、周囲や環境に適応する準備を整えることができます。周囲とうまく適応できればストレスは軽減し、うつ病の再発や症状の再燃を防ぐこともできるでしょう。発達障害(傾向)の人にとっては、自分の生きづらさや困りごとに対する工夫がストレス対処法のひとつになります。
うつ病で休職していた従業員が発達障害(傾向)という診断を受け、職場復帰するということは少なくありません。しかし、受け入れる側の職場としては、どのように対応すればよいのかわからない、というのが正直な感想でしょう。ここでは、発達障害であるとオープンにして復職するAさんで見てみます。(発達障害を職場に伝えずに復職するケースもあります)うつ病で休職していた場合、うつ病を再発させないための環境づくりが重要です。できるだけ本人がスムーズに環境に溶け込めるような配慮と、仕事の分担をおこないましょう。うつ病の職場復帰は原則、もとの部署が望ましいと言われています。ただし、発達障害傾向という診断もついた場合、本人の資質にマッチした部署異動も考えてよいかもしれません。
Aさんのような傾向の持ち主は、細やかな作業をひたすら集中しておこなう業務はストレスに感じられます。経理のような神経を使う仕事はAさんの強みを活かすのが難しいと言えます。Aさんの強みは好奇心や行動力・瞬発力ですから、強みを活かせる部署に異動し、活躍してもらえればベストです。ただし、最初から休職前と同じだけのパフォーマンスを期待するのは難しいと職場側も知っておく必要があります。
うつ病は業務遂行能力を低下させる病気(障害)です。ましてや、体力的にも、最初は通勤するだけで疲労してしまうと言われています。うつ病の回復を第一に考え、任せる業務も負荷の軽いデスクワークから始めるとよいでしょう。Aさんのような休職者の職場復帰をサポートする点で大切なのは次の通りです。
迎える職場側は、これまで困らされた経験から、復職を素直に歓迎できない気持ちもあるかもしれません。しかし、発達障害について少し理解を深めるだけで、当事者の生きづらさやしんどさを想像できるようになります。発達障害に焦点を当て、復職者本人がより働きやすい環境を作ることができれば、本人も、職場全体もうまく回ることがあります。サポートする側が心がけておきたいポイントは以下の通りです。
発達障害を抱える人がうつ病から回復したとき十分に活躍できる場を作るためにも、周囲の理解と協力は欠かせません。ともに働く仲間を応援できる土壌を作りたいものです。